叶わない恋 《ベニマル》

プロローグ ページ2

(痛い…)

　あたしは、代々警護の家系に生まれたが、今から３年前。母が亡くなった直後の事だった。
　幼い頃から習い、父の影響で習得した剣術で、狂暴な性格の不審者を撃退した際に、相手の両腕を木刀一本で骨折させた。

(なぜ、こんな事になった)

　理由は、明白。
　男は、短すぎる刑期で出所。
　執念で、あたしを捜しだし、馬乗りの状態で殺意を乗せた刃物でめった刺しにしている。

(この男が出所しなければ、嫁に行けたのに)

　何度も体に穴が開けられているうちに、痛覚と血液が無くなり、寒く感じた。

(次があるのなら、鬼になりたい)
《確認しました。大鬼族(オーガ)の体を作成します。……成功しました》

　昔から好きで、興味があった鬼の姿を思い浮かべるのを中断させるように、声が思考に割って入った。

(この力を護るために使おう)
《――確認しました。ユニークスキル「大番頭(マモルモノ)」を獲得。……成功しました。さらに、スキル「拒絶者(コバムモノ)」と、「祈願者(ネガウモノ)」を獲得。死因と、その過程により、「刺突耐性」「物理攻撃耐性」「痛覚無効」「熱変動耐性」を獲得。……成功しました》

　女性の声で、しかし、淡々と話す『誰か』に胸中で礼を言う。

(…誰だか知らないが、ありがとう)

　最後に何か聞こえた気もしたが、もう自分の耳には届く事は無い。
　こうして湊(みなと)紬(つむぎ)という人間は、14年の生涯を微(かす)かな希望を持って終えるかに思ったが、意識を手放す直前に辺りが明るく光った気がした。


　次に目を覚ました時には、どこかの里らしき場所にいて、鬼の方々に治療も含めて手助けしていただき、私は一人の鬼の男性(かた)のもとに嫁(とつ)ぐことになった。

第１話　兄妹→←人物設定

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す