命に変えても《２》【憂国のモリアーティ】 (ページ21)

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大英帝国の醜聞　第七幕　３ページ21

大英博物館、その図書閲覧室。
コツコツと足音を鳴らしながら室内へと入ってきたのはマイクロフトだ。

「……残念だよ、M」

その視線を向けた先には悠々としながらも整った姿勢で椅子に腰かけるアルバートの姿。

「君はもっと……賢い男だと思っていたんだがな」

皮肉なその一言にもアルバートは表情を崩さない。
ただじっとマイクロフトに視線を送りながら不敵な笑みを絶やさない。
マイクロフトへの電報では“文書を回収しアドラーを抹殺した”と確かにそう受け取った。
その上でアルバートはマイクロフトを呼び出し報告したいことがあると――

「その報告は何故まだアドラーが生きているのかの釈明になるんだろうな」

冷酷なその一言にアルバートは表情を崩さず一つの文書を差し出す。
以前アイリーンは不安そうな顔でそのやり取りを見つめている。

「宮殿より窃取されたこの文書……読ませて頂きました」

「非常に興味深い内容でした」とアルバートは言葉をすらすらと吐き出していく。
文書の内容はあっさりといってしまえば作戦指示書の類だった。
吐かれてはぶつけられる言の葉たちを神妙な面持ちで聞いていたマイクロフトはゆっくりと問う。

「……聞こう、君の要求は？」

「……話が早くて助かります、長官」

マイクロフトの問いにアルバートは優しく瞳を閉じて答える。
マイクロフトは吐露する。
何かの目的のためにMI6創設に関わっていたこと。その上でアルバートがいつ本来の目的で動きだすのか、そして今、命令に背き虚偽の報告をマイクロフト自身に送った以上何かの要求があって呼びつけたというのは明白。

「私にとっての興味は一つ。君が我が英国にとって敵なのかどうかだ」

一つの疑問。そしてそれは余りにも巨大な。
この英国を背負うものなら聞かなければならない、疑問。
マイクロフトからの直球な投げかけにアルバートは視線を沈める。
そして浮かび上がったとき――

「……私の要求はただ一つ――沈黙です」

妖しい緑の瞳は冷たく光っていた。