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「おねがい、
頭の中、僕にとっては一瞬で、けれど人間にとっては長い長い月日を遡る。
「......しなせて」
はらはらと舞う粉雪。冷たい月光が森に作る影。
例年よりも雪の多いあの冬に、この深い森に迷い込んだか弱き少女。
その酷い霜焼けが嫌に目につく指で彼女は、僕の手に錆びた拳銃を無理矢理握らせて、そしてその先を自分の額に突きつけて、笑う。
「おねがい、"しなせて"」
......殺したかった、わけではなかった。
森に響く発砲音。引き金を引いたのは確かに僕だった。飛び散る鮮血。一瞬、反射的に目を瞑り、すぐに開く。
雪の上に鈍い音と共に倒れ込んだ彼女の体。その血が周囲の雪を着々と赤く染めていくものの、幸か不幸か即死ではない。
まだ積もって1日と経たない柔らかな雪が、彼女の血と体温で溶けていくその様子にいつか見た絵画を思い出し、そしてふと我に帰り雪を踏む。
「......なん、で」
絶望に打ちひしがれたような呟きを放っておきながら、こうなってはもう助からないだろうと冷静に判断を下す僕がいた。
そこに近づく足取りはしっかりとしていたはずなのに、半ば崩れ落ちるようにして彼女の隣に跪き、傷口を指で塞ぐように抑え込む。
「ごめんね。僕は君を助けられない」
呟き、寒さで真っ赤に染まった彼女の頬を撫でる。
もし僕が彼女の言う、
歳をとることも死ぬこともできない、言ってしまえば僕はただの
大方過去の噂が独り歩きしているんだろうけど、残念ながらその魔女さんは、ずっと昔に僕を不死身にする代わりに死んでしまったわけで。
「......まぁでも、それが君の本望か」
この深い森で偶然出会った、どこの誰もわからない奴に突然、無理矢理拳銃を握らせた彼女のことだ。この寂しい森で死ぬことも嫌がらないに違いない。
死こそが唯一の救済である。
昔々、まだ普通の人間として天命を全うしていた時には分からなかった言葉の意味が、今の僕には分かるから。不思議な縁だけど、せめて最後まで隣にいてあげようと、その長い髪を手櫛で解いた。
「......まじょ、さん」
最期の一呼吸、彼女は囁く。
「"Aのこと、よろしくね"」
数時間後、瀕死の小さな少女を見つけ小屋へと連れて帰った。
名前はA。彼女の、愛娘。
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ビー玉(プロフ) - 次作品もぜひ読みたいです!たのしみにしてます〜! (6月3日 19時) (レス) id: 7a07f59bfb (このIDを非表示/違反報告)
すおう(プロフ) - しゃけさーもんさん» コメントありがとうございます!私もギルティ1番気に入っているので、そう言っていただけて本当に嬉しいです‼︎のんびり更新ですが見守っていただけるとありがたいです......! (6月3日 17時) (レス) id: 4a16b8c5b0 (このIDを非表示/違反報告)
しゃけさーもん - 個人的に10億と有罪のお話で泣きました。エモい?というか心がぐわっとする感じ(語彙力)で大好きです!!次回作も作っていただけるんですか、、、!楽しみに待ってます!! (6月3日 14時) (レス) id: a2c9c247fb (このIDを非表示/違反報告)
すおう(プロフ) - ビー玉さん» コメントありがとうございます‼︎まだ手探りで書いている状態なので、そう言っていただけるとほんっっとうに参考になります!この短編は次話(6人目)で完結かなぁと考えているのですが、近いうちに次作品も作る予定なので、よければ是非......! (6月3日 7時) (レス) id: 4a16b8c5b0 (このIDを非表示/違反報告)
ビー玉(プロフ) - とてもお話好きです!けどお話の中の流れや誰が話しているのかが分かりにくいところもあるので(個人的に)読みやすくしてくれたら嬉しいな〜って思います!これからも読み続けたいです!応援してます! (6月3日 1時) (レス) @page21 id: 7a07f59bfb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:すおう | 作成日時:2023年3月3日 16時