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「なに、きりやんっ......」
きんときが顔を上げる。その声の最後が震えながら消えた。
きりやんが小さく息を呑む。その手がきんときの方へ伸ばされ、触れる寸前で引っ込められる。
彼がその天使の名前を呼ぶ。一瞬の逡巡の後、響く声。
「なんで、何でお前が泣いてんの」
ぼた、と腕に一段と大きな滴が落ちる。
だって、だってとしゃくりをあげながら子供のように繰り返すその天使は、確かに涙を流していた。
その口から嗚咽と共に漏れる言葉。
それは、とある天使の回想録であった。
「だって、ずっと応援してたから」
人間の女に好意を抱いた堕天使は、それを友人である天使に打ち明けた。天使は堕天使の想いに胸を打たれ、その恋を応援し、それが実った暁にはまるで自分の事のように喜んだ。
しかし天使は知っていた。その人間がもうすぐ死ぬ運命であることを。
「幸せそうだったじゃん。お前」
奔走したそうだ。その女が少しでも生きながらえるように、天界に余っていた精気をかき集め、彼女の命に注ぎ、大天使に頭も下げた。
理由を問われればそれは、その堕天使がその女といる時、その姿が今までのどの瞬間よりも幸せそうに見えたからだった。言ってしまえば、堕天する前よりもずっとずっと__。
「優しいでしょ、俺」
自嘲気味に吐き出されたその言葉。私を抱える腕の力が強くなる。
裏を返せばそれは、ここまで俺は手を尽くしたんだ、だけどこいつはもう助からない。だからから諦めろ、ときりやんに言外に諭しているようだった。
訪れる沈黙。体に力が入らない。
私に残された時間は、あとどれくらいだろうか。
「......そうだね。きんときは優しいよ」
垂れてきた瞼が視界を塞ぐ。
ばさりと響く翼の音。
「そんなきんときならさ、俺のお願い聞いてくれる?」
そのきりやんの声には、確かな強さがあった。
へ、ときんときが間抜けな声を漏らす。
体が地面に降ろされる感触。震える手が私の腕に当たる。
「お前、本気?お前、堕天使ですらなくなるんだよ?」
「いいよ。また会えるし」
「......本気なんだ」
「お前こそいいの?俺が頼んでる事の意味分かってんの?」
もうどちらがきりやんの声かきんときの声か、考えるのすらも難しい。
大罪だよ、堕天するよ、と告げたのは、その言葉に苦笑を漏らしたのは、いいよ、やったげるよと呟いたのは、どちらの声なんだろう。
左手が取られ、薬指に何かが巻き付けられる。
その瞬間、ぱりん、と何かが割れる音がした。
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ビー玉(プロフ) - 次作品もぜひ読みたいです!たのしみにしてます〜! (6月3日 19時) (レス) id: 7a07f59bfb (このIDを非表示/違反報告)
すおう(プロフ) - しゃけさーもんさん» コメントありがとうございます!私もギルティ1番気に入っているので、そう言っていただけて本当に嬉しいです‼︎のんびり更新ですが見守っていただけるとありがたいです......! (6月3日 17時) (レス) id: 4a16b8c5b0 (このIDを非表示/違反報告)
しゃけさーもん - 個人的に10億と有罪のお話で泣きました。エモい?というか心がぐわっとする感じ(語彙力)で大好きです!!次回作も作っていただけるんですか、、、!楽しみに待ってます!! (6月3日 14時) (レス) id: a2c9c247fb (このIDを非表示/違反報告)
すおう(プロフ) - ビー玉さん» コメントありがとうございます‼︎まだ手探りで書いている状態なので、そう言っていただけるとほんっっとうに参考になります!この短編は次話(6人目)で完結かなぁと考えているのですが、近いうちに次作品も作る予定なので、よければ是非......! (6月3日 7時) (レス) id: 4a16b8c5b0 (このIDを非表示/違反報告)
ビー玉(プロフ) - とてもお話好きです!けどお話の中の流れや誰が話しているのかが分かりにくいところもあるので(個人的に)読みやすくしてくれたら嬉しいな〜って思います!これからも読み続けたいです!応援してます! (6月3日 1時) (レス) @page21 id: 7a07f59bfb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:すおう | 作成日時:2023年3月3日 16時