prologue ページ1
「 行ってきます 」
いつも通りの朝
毎朝同じ時間に同じ鳴き声で鳴く鳥
なにかに追われているようにせわしなく歩くサラリーマン
愛犬と一緒に散歩をする近所のお爺さん
そして眩しいくらいキラキラとしている君
いつもの場所でいつもと同じように
イヤホンを両耳にはめながら視線を動かし
反対側の道路に居る私に気づけば
子供のような可愛らしい笑顔で手を振る
同じように私も手を振り返す
いつも通りの時間にいつも通り信号を待つ
向かい側では君が何か言いたそうな顔で待ってて
「今行くから」って笑いながら口だけを動かして伝える
それに君も応えて「早く」って口だけを動かして
それと同時に歩行者信号が赤から青へ変わる
私は歩き出す
その時
ドンッと鈍い音と共にもの凄い衝撃を感じ身体が宙を舞った
瞬間、容赦なく私の身体がアスファルトに地面に叩きつけられる
子供達の泣き声
女性の悲鳴
近づく君の声
思考を働かせて何とか動くらしい唇をできるだけ動かしてみるけれど
私の声は出ていないらしく君は涙でぐちゃぐちゃになった顔を私の唇に寄せ一生懸命聞こうとする
本当に泣き虫だなあ、君は
なんて笑ってみるけど笑えてるかな
何か言おうと最後の力を振り絞り声を出してみる
「 … 好、き 」
自分でも驚いた
こんな事を言うはずじゃなかったと口に出してから後悔する
痛みと暖かいものが自分から流れ続ける感覚で意識が遠のく中
君が何か言ってるみたいだったけれど何も聞こえなくて
私は静かに目を閉じた
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作者名：スミレ | 作成日時：2020年6月12日 21時
