38杯目 ページ38
とうの昔に自分の気持ちに決着をつけていた。
Aのことを好きだったのは、中学時代の話だ。
隠れて泣いているのを見た日から、親しくなっていけばいくほど、泣かせたくないという思いが増していく日々だった。気がつけばAの話ばかりをするようになっていたらしく、
「なるせ、高校行ってAちゃんと離れるの寂しくねーの?」
「は?なんでだよ」
「だっていつもその子のことしか話さなかったじゃん、好きなんじゃないの?」
なんて、卒業間際に友人に指摘されて初めてそれに気付いた。
卒業したらもう会えることも無いだろうし、しばらく会わない間にAへの気持ちは同情のようなものだったのでは、と思い始めて、すっかり気持ちは落ち着いていた。
――だから、おろしたての制服に袖を通したAを見つけたときは、心底驚いたのだ。
一瞬気持ちが揺らいだものの、空白の一年間は大きくて、中学時代と同じ想いには戻らなかった。何より、めいちゃんのことを話すAは見たことないくらい"女の子"の表情をしていたから、すっぱりと諦めることができたのだ。あの顔にさせることができるのは、めいちゃんだけで、俺じゃだめだとすぐに分かった。だから、好きだったAと、大切な友人のめいちゃんが幸せになってくれればそれで良い。その手助けをしようと、心に決めた。
――その手助けの一環として、今回夏祭りにAを誘ったのだった。
Aのことを好きなのは嘘じゃない。ただとっくにけじめをつけていただけで、はっきり終わらせたわけじゃないから、自分のためにも今回やってやろうと思った。
何となく、めいちゃんが俺を危惧しているのを感じていたから、焚きつければもう一度めいちゃんの気持ちに火がつくことは容易に想像できた。
『なるせごめん、やっぱりAちゃんと話したい。』
……全く、待ちくたびれたよ。
ちょっとムカついたからすぐに返事はしないで、その代わりに時間を置いてから電話をかけた。
――俺の今日終わりにする想いと、Aの本音を聞いてもらうために。
やっぱりAはめいちゃん一筋で、どうしようもなく眩しかった。
……そういう真っ直ぐなところが好きだったよ、A。
『俺は帰るから、あとはおふたりで』
灰になった想いを散らせるように、俺は一人で帰路についた。
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を。(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» 今回もお付き合いありがとうございました!感想とても嬉しいです;;新作全然思いついてないのでいつになるか分かりませんがまたそのときはよろしくお願いします!! (8月17日 10時) (レス) id: 8f27bf5dbb (このIDを非表示/違反報告)
Mrs.ぱんぷきん(プロフ) - 完結お疲れ様でした!ドキドキワクワクキュンキュンするような話で、食い入るように見てました!もし新作があれば絶対読ませていただきます!素敵な作品をありがとうございました! (8月16日 6時) (レス) @page41 id: 3c19ec381c (このIDを非表示/違反報告)
を。(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» 今回もコメントありがとうございます!またお付き合いいただけたら嬉しいです!! (2023年3月30日 18時) (レス) id: 8f27bf5dbb (このIDを非表示/違反報告)
Mrs.ぱんぷきん(プロフ) - 新作おめでとうございます!とても待っておりました!!!この作品も楽しませていただきます!!!!! (2023年3月30日 8時) (レス) @page2 id: 3c19ec381c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:を。 | 作成日時:2023年3月30日 8時