貳拾 ページ22
無心に木刀を振り続ける。
…少し休憩しようか。そう思ったちょうどその時来客を知らせるベルが鳴った。
確認しに行くのも億劫で、そのままにしているとやがて姿を現したのは見知った青年だった。
「よォ、引きこもり。」
有名な甘味処の紙袋を片手に、勝手に訓練所に入って来る。
「一応溜まっていた休暇を消費しているだけなんだけど。」
「ちっと台所借りるぞォ。テメエはまず風呂に入ってこい。」
…聞く耳というものを彼は持たないらしい。溜め息をついて、汗を流す為に風呂場に向かった。
彼は縁側に座っていた。近くのちゃぶ台には彼が用意したのであろう 二人分の抹茶とおはぎが置いてある。
「それで、何の用なの?」
彼の横に腰掛け、庭を眺める。其処には私が破壊した打ち込み台の残骸や最早原形を留めていない程刻まれた竹等が散らばっていた。
「…報告書を、見た。」
ただてさえ静かな空間がより一層静寂に包まれた気がした。
「あぁ、そういう事ね。」
つまり彼は私を慰めにでも来たということか?
「わざわざご苦労様。でももう大丈夫だよ。」
確かに落ち込んでいたのは事実。でもこの数日間で私を心配する手紙が山のように届いた。
特に義勇の手紙が三十枚にも及んだのは流石に笑ってしまった。
私には支えてくれる仲間がいる。だからもう___
「斬ったんだろォ、仲間を。」
ねぇ、
「どうして君は、そんな痛い所を突いてくるのかな?」
嫌味ったらしく返すも、彼は何も言わない。
「斬ったよ。大切な、仲間を。」
空を、見上げる。
星は雲で隠れているのか全く見る事は出来ない。月さえも確認する事が出来なかった。
「斬った感触も、最期の言葉も、全部覚えている。何度も何度も夢に見た。」
あ、れ…
もう大丈夫、そう思っていたのに。
「最期にね、彼笑っていたの。一体どうしてかなぁ。分からない、や。」
涙が、止まらない。
「…馬鹿野郎。」
彼の方に、引き寄せられた。無抵抗のまま、彼の胸板に身体を預ける。
「何もかも解決した気になっていて、結局テメェは誰にも吐き出せていなかったじゃねェか。」
「うん、ごめん。」
「テメェはもっと仲間を頼れ。」
「うん。お館様にも同じことを言われたよ。」
「…このままで良い。少し、聞いてくれ。」
「?……良いよ。」
彼の心臓が何時もより早い。
「俺は、お袋をこの手で殺した。」
息が、止まった。
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mikki-(プロフ) - 酸漿さん» ひぇ……お友達さん絵が上手すぎやしませんか????貴方の作品もお友達さんの絵も好きです応援してます!! (2019年7月29日 19時) (レス) id: df35f93799 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - mikki-さん» 友達が書いてくれたものです。登場人物紹介に載せているのは、角&耳っこメーカー様からお借りしたものです。紛らわしくてすみません。 (2019年7月29日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
mikki-(プロフ) - 初めまして。質問なのですが、表紙のイラストは酸漿様が描いたものなのですか?教えて下さい (2019年7月29日 18時) (レス) id: df35f93799 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 金糸雀さん» その通りです。夢主の母を鬼にしたのも彼です。彼は自ら会いに来るまでは待つ、という約束を律儀に守っています。 (2019年7月7日 20時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
金糸雀 - まさか、過去の話に出てきて鬼は上弦・壱ですか? (2019年7月7日 1時) (レス) id: 359e27b0ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年6月16日 19時