什捌 ページ20
世界が、透明になる。
視 え る
筋肉の僅かな弛緩、そして空気の微かな揺らぎ。それら全てが私に奴等の動きを教えてくれる。
どんな道を辿っても、極めたその先に辿り着くその世界を、
全解放・暉の呼吸
___私の舞いを、何人たりとも妨げる事は出来ぬ。
壺から溢れる鮮魚も、扇から繰り出される氷の礫も、
とても緩やかな動きに視える。
それは祭具を両手で握り、流れるような動きで舞台を駆け巡り、螺旋を描く舞い。
一万の粘魚を全て斬り裂き、落下してくる氷柱も一撃で砕く。
奴等の目が驚きに見開かれる。咄嗟に奴が放った吹雪が私目掛けて殺到するが、砕けた氷柱の一部を蹴って交わす。
刃が届く直前、水牢に閉じ込められる。だが、一瞬で斬り裂き、その勢いで刃を振り下ろす。
扇の鬼の頸に刃がめり込んだその瞬間、
べべん!
琵琶の音と共に、奴等は消え失せた。
「、は?」
朝陽が、昇る。
所々穴が空いた屋根も、砕けた瓦も奴等がいたことを証明している。それでも肝心の奴等は姿形も見当たらない。
逃げ、られた……?
「嘘、でしょう。」
刀が手から滑り落ち、手で顔を覆う。
あと、もう少しだったのに。
大切な二人の死を、無駄してしまった。
「うっ、」
堪えていた涙が溢れ出す。
___記憶が、蘇る。
何時も柔らかな笑みを湛えていた彼女は、涙を流し顔を歪ませて絶命していた。
抱き上げると信じられない程冷たかった。昔、寒さで握ってくれた手の温もりが蘇り、涙が零れそうになった。
何時も姉の後を追い、仔犬のように可愛いと思っていた彼は、理不尽に鬼にされ 自我を失い、最後に多くの人の命を奪ってしまった。
家族を鬼に殺された彼は、死んでも鬼にはなりたくないと思っていた筈なのに。
…私の手のひらから、零れ落ちてしまった多くの命。
だからこそ絶対に逃がさない。そう、誓ったのに。
___自分の弱さが、憎い。
昇る太陽の下で、隠達が来るまで一人泣き続けた。
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mikki-(プロフ) - 酸漿さん» ひぇ……お友達さん絵が上手すぎやしませんか????貴方の作品もお友達さんの絵も好きです応援してます!! (2019年7月29日 19時) (レス) id: df35f93799 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - mikki-さん» 友達が書いてくれたものです。登場人物紹介に載せているのは、角&耳っこメーカー様からお借りしたものです。紛らわしくてすみません。 (2019年7月29日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
mikki-(プロフ) - 初めまして。質問なのですが、表紙のイラストは酸漿様が描いたものなのですか?教えて下さい (2019年7月29日 18時) (レス) id: df35f93799 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 金糸雀さん» その通りです。夢主の母を鬼にしたのも彼です。彼は自ら会いに来るまでは待つ、という約束を律儀に守っています。 (2019年7月7日 20時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
金糸雀 - まさか、過去の話に出てきて鬼は上弦・壱ですか? (2019年7月7日 1時) (レス) id: 359e27b0ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年6月16日 19時