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什陸 ページ18

屋敷を走る間に、多くの人が喰い散らかされているのが確認出来た。


どうして、近くにいたのにもっと早く気付いてあげられなかったのだろう。


後悔が胸に押し寄せるのと同時に 耐え難い怒りが込み上げてくる。


屋敷の人々は兎も角、薺は喰われた形跡が無かった。…つまり、拷問されて殺された。


痛かったろう、苦しかったろう。


でも今考える事ではない。頭から振り払い、足を動かす事に専念する。


やがて目的の場所に辿り着き、その重厚な扉を蹴り飛ばした。









「Aさん、」









なんで、


その言葉が出る前に、彼を押し倒し頸に刃を突き付けていた。


ねえ、


「なんで、」


君の手は血に濡れているの?


どうして君の歯は尖って、目は猫のように瞳孔が開いているの?


涙が、零れ落ちた。


「どうして、人を喰った!」


思いを吐き出すように、叫ぶ。


「上弦の鬼に、遭遇しました。」


気が付けば彼も涙を流していた。


「俺が先にバレて捕まってしまい、無理矢理扇の鬼に…」


その後の事は覚えていません、そう呟いた彼は嘘をついていない。長い付き合いだからこそ分かってしまう。


「姉は、薺は無事ですか?」


その言葉に、ぐっと言葉が詰まる。無言で横に首を振ると、彼は何もかも諦めたように微笑んだ。


「俺を、殺して(斬って)下さい。」


一瞬、息が止まった。


「俺の終わりは貴女が良い。」


分かっている、分かっているんだよ。でも、震えが止まらない。


「俺が理性を保てている内に、さぁ早く。」


彼が刃を自ら頸に押し付ける。血が、流れ落ちた。


その瞬間過ったのは、あの夜の記憶ではなく。



『Aちゃん! 美味しい甘味処を見付けたの!一緒に行きましょう!』


『姉さん、Aさんを連れ回し過ぎだよ。困っているだろう?』


『もう、Aちゃんと一緒に居たいのは、私だけじゃ無いくせにー!』


『ば、馬鹿! 本人の前で言うなよ!』



彼等と過ごした、あたたかな日々。


「棗、ごめん。」


そして、今まで有り難う。


「Aさん。貴女の事が、好きです。」


彼の目から涙が零れ落ちて、私は刃を握る手に力を入れた。









塵となって彼が消えてしまうまで、目を逸らさず見つめ続けた。


泣き叫んで、蹲ってしまいたい。


…でも私にはまだ、すべき事がある。


力強く立ち上がって、次の瞬間強く地を蹴った。

什漆→←什伍



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mikki-(プロフ) - 酸漿さん» ひぇ……お友達さん絵が上手すぎやしませんか????貴方の作品もお友達さんの絵も好きです応援してます!! (2019年7月29日 19時) (レス) id: df35f93799 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - mikki-さん» 友達が書いてくれたものです。登場人物紹介に載せているのは、角&耳っこメーカー様からお借りしたものです。紛らわしくてすみません。 (2019年7月29日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
mikki-(プロフ) - 初めまして。質問なのですが、表紙のイラストは酸漿様が描いたものなのですか?教えて下さい (2019年7月29日 18時) (レス) id: df35f93799 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 金糸雀さん» その通りです。夢主の母を鬼にしたのも彼です。彼は自ら会いに来るまでは待つ、という約束を律儀に守っています。 (2019年7月7日 20時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
金糸雀 - まさか、過去の話に出てきて鬼は上弦・壱ですか? (2019年7月7日 1時) (レス) id: 359e27b0ea (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年6月16日 19時

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