花火 ページ39
参道に並ぶ灯籠に火が灯る。白熱灯をぶら下げた屋台から威勢のいい呼び声が飛び交い、美味しいそうな匂いが溢れ、浴衣姿の男女や家族連れが賑わう。
「おーい、猗窩座。こっちだよ!」
奴に向かって大きく手を振れば、無邪気な笑顔を浮かべて 小さく手を振り返してくれる。
濃紺地に細かく白い縞模様が入った浴衣に献上柄の綿角帯。青い紋様は消して、艶やかな黒髪に琥珀色の瞳。
…ずるいなぁ。
「すまん、遅くなった。」
「いや、私も今来たばかりだから 大丈夫。凄く似合っているよ!」
そう言って微笑みかければ、何故かぷぃとそっぽを向かれる。
「…お前の方が、似合っている。」
微かな、でも確かに聞こえた声に、カッと熱が込み上げた。
「え、えっと、取り敢えず行こうか。」
赤に染まった頬を隠そうと、今度は私がそっぽを向いて、奴の手を引いた。
「食べるの、勿体無いなぁ。」
屋台で買った飴細工や綿菓子を空に翳して、溜め息をつく。
「お前は 本当に好きだな。」
「猗窩座も、食べる?」
試しに林檎飴を差し出せば、奴は長い舌でちろりと舐めた。
「…甘い。」
「それが美味しいんだよ。」
少し眉を顰めた奴を見て、けらけらと笑う。何時の間にか、祭の喧騒は何処か遠くなっていた。
「そろそろだね。」
直後、耳を聾する炸裂音と共に夜空に花が開いた。
どん、と少し遅れて音が鳴る。川風が運ぶ火薬の匂い、遠くで聞こえる人々の歓声、そして突然握られた手。
その手は相変わらずひんやりとしていて、でも確かな温もりが有った。
次々と打ち上げられる花火。幾筋もの軌道を残して、夜空を彩る。爆音を響かせ、一瞬の閃光が走り続ける。
ふと横に目をやると、奴は目を大きく開けて空を見ていた。一瞬の光が、消えてなくなる輝きが、儚く散っていく煌きが全て奴の瞳に映っていた。
それはとても綺麗で、繊細で、今にも消えてしまいそうな危うさがあった。
「…綺麗だね。」
突如として襲われた不安に、繋いだ手をぎゅっと握りしめる。
「あぁ。…綺麗だな。」
目が、合った。
その瞬間
まるで太陽の明るい日差しの中に居る様な、眩しい微笑を浮かべた。
あぁ、
__好きだ。
空がその日一番の花火に彩られた瞬間、
そっと唇を重ね合わせた。
唇を離せば、奴は耳どころか首筋まで赤に染まっていて、でも奴の瞳に映る自分も真っ赤で、二人で顔を見合わせて笑い合った。
証し another side→←約束 another side
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まゆまゆ(プロフ) - 愛する猗窩座と世の中で一番惚れてる実弥との作品 キュンキュンしながら読ませて貰ってます(*´∀`)嗚呼現実で猗窩座に愛してるって言われて接吻したい(//∇//)実弥にも包まれたい (2021年3月9日 12時) (レス) id: 442319c796 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - まりなさん» ご指摘有り難うございます。修正しました(^-^) これからもよろしくお願いします。 (2019年4月13日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - 酸漿さん» コメント多くてごめんなさい。リクエスト嫌なのでしたら書かなくていいです。 (2019年4月10日 10時) (レス) id: 87339a530e (このIDを非表示/違反報告)
まりな(プロフ) - めちゃおもしろいですす!!あ、時任じゃなくて時透じゃないですかね、、違ったらごめんなさい!! (2019年4月8日 21時) (レス) id: 960cfe9f67 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 美桜さん» ありがとうございます。これからも更新頑張ります。 (2019年2月11日 13時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:酸漿 | 作成日時:2018年9月30日 22時