43話 秘密と花園 ページ46
もうすぐ花火が上がる頃だろう。
君の横顔を今焼き付けるようにじっと見つめる。
「どこ見てんの、花火向こうだよ」と彼は笑いながら言う。
「知ってる。ただ、面白い顔してるなって思って」
「ひどいこと言うな」
本当に言いたい言葉、たった簡単な二文字なはずなのに、なぜか私の口から出るのは憎まれ口。
そりゃ、こんな娘、好かれるはずないか。
私も花火が上がる方を見上げる。
しかし、人集りのせいであまり綺麗に見えない。
「あんまよく見えないなぁ」
「なら、良い特等席知ってる。ついてきて」
彼は私の手を掴んで、人混みの中を掻き分けながら前に前にと進んでいく。
人気がないところまで来て、古びた小さな神社の階段を昇って、右に逸れる細い道に入っていった。
通っていいのか不安だったが、通行禁止とは書いてないから大丈夫なのかもしれない。
道の先はちよっとした平地になっていて、夏祭りの様子が上から見渡せる。
空一面に打ち上げられる花火が隅から隅まで見れる。
私は言葉を失った。
「意外でしょ」
「すごい、絶景……」
「小学生の頃からの秘密の場所。毎年ここに来て花火見てた。
昔は先客とかいたんだけど、この場所知ってる人もういないのかな」
「いいなぁ、そういう秘密基地とか秘密の場所とかめちゃくちゃ憧れる」
まさか2人きりになれるとは思わなくて、鼓動が弾けそう。
そして顔が熱くなる。多分夏のせいだ。
告白には持ってこいのシーンなのに、何も言えないのがもどかしい。
私はただ黙って、花火と花火を見る光の横顔を交互に見つめるしか出来なかった。
「愛ちゃんここに連れてきたら？絶対喜ぶと思う」とアドバイスをしてみる。胸がズキズキと痛む。
「そうしてみる。ってか、明日誘う予定だったし」
「そうだったんだ……」
あーあ、なんで誘っちゃったんだろ。1番綺麗な自分を彼に覚えててほしかったのに、その次の日が好きな子とのデートだったら私のことなんてあっという間に忘れるに決まってる。
私は激しい後悔の念に襲われた。
「それで告白してみたら？」
「ムリムリムリ」と彼は手をワイプのように振る。
「そろそろいいんじゃない？3回目でしょ？」
「いやでも〜、俺的には5回目で告白したいって言うか〜」
「そんな待ってたら他の人に取られちゃうよ。あの子かわいいから、光以外にもいっぱいモテてると思うけどなぁ」
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作者名：西木野海未 | 作成日時：2021年10月5日 3時
