37話 ズルい男 ページ40
そして演技レッスンが終わったあとの光との帰り道も私の大切な時間だった。
「Aはさ、音楽で食べてくつもりでしょ？
別に演技とかしなくてもよくね？」
「私も最初はそのつもりだったけど、先輩は表現力は大事だって言ってた。
ただ淡々と歌ってるだけだったら、せっかくの曲の良さも殺しちゃうからって。曲作ってくれた人にも失礼だしね。
それとね、私メンバーと一緒にコントやってみたいと思ってて。SMAPが番組でコントやってたでしょ。
あんな感じで1回やってみたいなぁって」
「あーね。台本とか書いてんの？」
「ちょっとだけ。
完成したら見てくれる？
本業の人の意見欲しいし」
「いや、A、充分面白いし、そんなんいらんでしょ」
「光には叶わんよ。頼むから完成したら見てよ」
「しゃあねぇな」
「やったぁ！絶対面白いやつ書こう。
……あ、今日は劇場寄らなくていいの？」
「ああ、今日は遅いからいいや」
「遅いからこそでしょ。夜道だし愛ちゃんが危ない目に遭うかもだし」
愛ちゃんは、例の愛らしい雰囲気の劇場のスタッフの子で光の好きな人。
劇場に行くたびに私は彼女に話しかけて仲良くなって、そして光に彼女を紹介してたまに3人で遊びに行ったりして仲を取り持っている。
なかなか進展はしない。私は潔く諦めたいから早くくっつけばいいのにって思ってる。
「それ言ったらAも危ない目に遭っちゃうでしょ。
心配だから一緒に帰る」
いつも扱いが雑なのに、たまにそういう優しさを見せるのがずるい。
それが彼のいいところなんだけれど、私にはちょっと辛い。
「それとアンジェラに会いたいし」
あ、この人絶対に私の愛馬が目的だ。
「別にいいけど」
「……Aもさ、俺のことは心配しなくていいから、もっと自分の恋愛に時間使えよ。
あんなことあったから、Aには本当に幸せになってほしいって思ってるし」
幸せになってほしい、か……。
今とは全く違う関係で、結ばれる世界戦を選べていたら、私はこんなふうに恋に破れることはなかっただろうな。
「……ありがとう。
でも今は恋愛とかいいかな。
光と愛ちゃんが上手くいってから私も相手見つけるよ」
「おう……なんか色々悪ぃな。
もう俺、Aに相手紹介しなくてもいいよな。
○○大に頭良くて将来有望な男友達いっぱいいるでしょ。そこで相手見つけた方がいいよ」
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作者名：西木野海未 | 作成日時：2021年10月5日 3時
