36話 演技レッスン ページ38
You side
地獄のような大学での試験も無事に終え、ようやく待ちに待った夏休みを迎えることが出来た。
この夏私はサークル合宿には参加せずに、光と共に演技のレッスンに通っている。
これから先、芸能人として生きていく上でやはり演技が酷いというのは致命的だろうと思った。
歌やダンスの表現力にも限界が見えてくるかもしれない。
今よりもっとステップアップするためには、ライバルに勝つためには苦手分野も克服しなければならないと思った。
そして私は、AAAの全員でやってみたいことがひとつできた。
今はまだメンバーの皆に言えないがその野望を叶えるためにも演技力はあげておく必要はある。
演技レッスンのレッスン生にはAAAや私のことを知っている人はおらず、練習生の時のように初心に戻って演技の勉強をし直すことが出来た。
本日は「ひたすら舞う」という演目の授業だった。
音楽はなく、「その時感じた気持ちを素直に体に伝えろ」と先生は言う。
無音のなかで私はひたすら舞った。
久々の即興ダンスだった。しかも無音なんて新鮮だ。
演技のレッスンが楽しいって気持ちを体で表現した。
調子に乗ってロンダードからのバク転もする。
周りのレッスン生が「おぉ〜！」と声を上げる。
やっている途中で気づいた。
踊るのって本当に楽しいんだって。
ダンスってひたすら技術を求められるもので、周囲のライバルと比べられて、ひたすら優越をつけられて時には嫌いになりかけた時もあった。
習っていたバレエもそれが原因で嫌いになって辞めた。
最初は楽しかったはずなのにどうしてなんだろうな。
先生が手を叩き、終了した。
肩で息をしながら「どうでしたか？」と聞く。
「調子に乗りすぎだ」と答えた。
「次、野田さん」と光が指名される。
光は少し嫌そうな顔をこちらに向けて、しぶしぶ立ち上がった。
彼は思いのままにひたすら舞っていた。うん、楽しそう！そして面白すぎて、私は笑いをこらえるのに必死だった。
彼は息を切らしながら「どうでしたか？」と先生に聞く。
「はしゃぎすぎだ」と答えた。
舞を終えた光は私の隣に体育座りして言った。
「演技って奥深いね……」
「そうだね」と私は返した。
「Aのダンス、マイケル・ジャクソンみたいだった。
俺もあんな風に踊れたらなぁ」
「光のも良かったよ。
いつものネタみたいで」
「なんかあんま嬉しくない」
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作者名：西木野海未 | 作成日時：2021年10月5日 3時
