11話 ステキな両思い ページ13
「太客ってなあに？太ってるお客さんのこと？」
千晃が天然発言をしてくれたおかげで、少し張り詰めていた空気が砕けていった。
「違うよ千晃ちゃん、太客ってのはね、大金を落としてくれる太っ腹な客って意味。よく水商売で使われてる業界用語かな」
日高がわかりやすく意味を説明する。
「あっ、そういうこと！強いファンがいるんだね〜」
「まあな。そのファンを増やすために、氷室には男性ウケの路線を狙って、クイズ番組以外にも今後CMとかの仕事も来るだろうな」
「お、おお〜。めっちゃ嬉しいです！頑張ります」
そんな当たり障りのない返事しかしなかった。
みんながいるところでそういう私の人気がどうとか売り出し方とか個人の仕事の話とかはあまりしないでもらいたかった。
白戸さんも一人一人には構っていられないし、団体行動が多いのでなかなか一体一で伝えるというのも難しいというのはわかっていた。
その場にいづらくなった私は「ちょっと御手洗に」と嘘をついてスタジオを出た。
扉の横でにっしーが一人佇んでいたのに驚いて思わず「うわっ！びっくりした〜」と声を上げる。
「聞き耳立ててごめんね。いづらかったでしょ」
「う、うん」
「Aが戻るまでは俺がずっとあんな感じだった。
……ここじゃ誰かに聞かれるかもしれない。
気分転換にコンビニ行こ。歩きながら話す」
「わ、わかった」
私はにっしーの後をついて歩き、エイベックススタジオを出た。
外に出て、私は彼の隣に並んで歩く。
いつの間にか彼の身長に追いつきそうだった。出会ったばかりの頃は彼より10センチほど低かったのに。
「しかし、見ないうちに大きくなったね」
「いや、変わってない。むしろ勉強のし過ぎで縮んだわ」
「もっと縮め」
「ムリだよ、まだ成長期だし」
「若いっていいなぁ。俺もう20歳になっちゃったよ」
「……顔が可愛すぎてあんまり見えないなぁ。
お酒買う時、年齢確認されてるんじゃない？」
「げっ、なんで知ってんのよ。はぁーあ。俺もAみたいに大人っぽい見た目になりたかったよー」
「私はにっしーみたいにかわいい感じの顔が良かったよー」
「嫌味？ねえそれ嫌味？めっちゃ顔整ってるのに？」
「そんなことないよ。長澤まさみさんとか石原さとみさんとかの方が綺麗だよ。
私はにっしーの顔好きだよ。こう、かわいくもあり、惹き込まれる感じの顔。芸能人として100点だもん」
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作者名：西木野海未 | 作成日時：2021年10月5日 3時
