9話 クライシス！？ ページ11
「わかってるけど……」
私は下を向いて、履き慣れたスニーカーをじっと見つめる。
デビューしてから新調した真っ白だったスニーカーも、いつの間にか色褪せて薄汚れている。
「俺はこれ以上首突っ込まないことにする。
また2人で会える機会があったらいいね」
「だっちゃんと秀太もついてきてよ。
光と2人だと緊張するし」
「やだ、ついて行きません。告白は2人きりの時にするもんでしょ」
「……気が利かないなぁ」
「A、いつからそんなヘタレになっちゃったのよ、お母さんガッカリだわっ」と日高が思春期の息子に怒る母親の真似をしだした。
私はそれを見て少し笑った。
「そうそう、笑った方がいいよ。その方がかわいいよ。
Aに『好きです』って言われて落ちない男なんていないって！」
彼は私の方を軽く叩いた。
そのままその足でレッスンへ向かった。
次回のライブに向けて夜遅くまでみっちりやり込んだ。
そして、いつも以上ににっしーがピリピリしていた。
「A、こないだも言ったと思うけどさ、サビの部分ちょっとワンテンポ遅れてる」
「あっ、ごめん……」
「あんたがズレたらみんなダメになるって自覚ある？
Aのポジション、宇野ちゃんか直也くんに変えてもらってもいいんだよ」
「それは……！」
「ちょっと、にっしー、言い過ぎだよ。
A、復帰してまだ1ヶ月ちょっとだよ。体力もまだ回復してないし、ライブもまだまだ先だし_____ 」
実彩子が止めに入ってくれたがあまり効いていないようだった。
「ダメだよ宇野ちゃん、甘すぎるよ。
俺が、俺とAがちゃんとしないといずれダメになる。
Aも今のままでいいのかよ？復帰したばかりだからって大目に見てもらってて、それでいいの？」
「違う、よくないって思ってるよ」と私は大きく首を横に振った。
前までのにっしーとは違う匂いがする。いつものにっしーじゃない。
生き急いでいて自分自身を見失っているような感じだ。
一体独りで何を抱え込んでいるんだろう。私達には到底話せないことなのだろうか。
「ねえ、なんでにっしーはそんなに生き急いでるの？」
「別に生き急いでなんかねぇよ。ただあんたがしっかりしてないから怒ってるだけ」
「でも、私もちゃんとやってるって_____ 」
「はいはい、2人とも落ち着けよ。仲間割れしてる場合じゃないでしょ」
言い争いしかけていたのを直也が間に入って止めてくれた。
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作者名：西木野海未 | 作成日時：2021年10月5日 3時
