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儚い愛情 【蜘蛛母】 ページ2


「……母さん」

そう呼んだら、どんな反応を見せるのだろう。

母親役の鬼は、まだ幼い子どもだった。

それ故、母親らしい振る舞いなどできるはずもなく、毎日のように累に叱責されていた。

そんな母さんが、私は愛おしく感じてしまった。

しかし母さんからしてみれば、私達は鬼狩りから逃れるための紛い物の家族。

愛情どころか絆も、感じていないに違いない。

父さんに殴られ、累に傷つけられる。そんな毎日なのだから、呼んだところで怯える以外の反応なんて、見せるはずがなかった。

実際、目の前にいる母さんは自分が何かを誤ったと思い、必死になって謝っている。

「母さん、怯えないで。私は父さんみたいに殴らないし、累みたいに傷つけないよ」

母さんに安心して欲しくて、私は微笑んでみた。

緊張がほぐれたのか、少し表情が和らいだ。
累がいないのを確認し、さらに続ける。

「私は母さんのこと、好きだよ。だから、怯えないで? 私が庇う。私が、母さんを守るよ」

「……本当に?」

「うん、本当に。だって、母さんだから」

まるで妹のような母さん。私は弱い鬼だけど、心だけは強くありたかった。

累から庇うというのは、酷く苦しい日々を送ることになることを意味していた。

逆らえば、ひどい仕打ち。累は空っぽで、本物の絆なんて知らない子。そう思い我慢を続けた。

私は常に母さんのそばに居て、母さんも失敗が少なくなってきた。

「A、いつもごめんね」

私の髪を優しく撫でる母さんは、本物の母のようだった。

「母さん、気にしないで。母さんを守るって約束したでしょ。私は母さんを愛してる」

私にだけ見せてくれる、優しい笑み。

その柔らかな笑みが大好きで、いつまでもそばに居たいと思った。

しかし、幸せというものは何よりも儚い。

鬼狩りが山に入ってきたのだ。

母さんは真っ先に戦うことを命じられる。

私は累に気づかれないように母さんの元へ急いだ。

戦い慣れていない母さんを戦線からから離脱させるために、私は急いだ。

母さんに刃を振るう鬼狩りから命を懸けて守る。

今私にできるのは、それしかない。覚悟の上だった。

「ごめんね母さん。また母さんに苦しい思いをさせちゃうね」

崩れる私を見て、母さんは呟いた。

「死なないでA。庇ってくれる人がいなくなるわ」

母さんはただ、演じていたのかもしれない。私を愛する、綺麗な母を。

それでも構わない。一方通行の愛でも、私は母さんを愛していたのだから。

曇りの中 【猗窩座】→←甘美な恋 【矢琶羽】



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日陽(プロフ) - 鬼最高です!矢琶羽との夜のお出かけとか良いですか?最終的に2人がキスしてる所を読みたいです!難しいかもですがお願いします! (2019年6月23日 7時) (レス) id: cc8b6e8cb5 (このIDを非表示/違反報告)
ねこ々(プロフ) - 鬼達のみの小説、素敵です! リクエスト受付とのことですので、「響凱」でお願いできますでしょうか(*´・ω・`) (2019年6月18日 17時) (レス) id: 5e3da37f48 (このIDを非表示/違反報告)
罪樹積み木 - 妓夫太郎の小説いいですかね……? (2019年6月9日 0時) (レス) id: 3885c57797 (このIDを非表示/違反報告)
野良 - 鬼舞辻無惨お願いします!! (2019年5月3日 8時) (レス) id: 692818d29c (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - 敵側の鬼以外無理ですか? (2019年1月25日 11時) (レス) id: 87339a530e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:薄氷 | 作成日時:2017年8月8日 11時

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