ユラテの涙2nd【ルパン三世】 (ページ1)

今日:2 hit、昨日:11 hit、合計:3,276 hit

memènto ページ1

.

ーーー
ーーーーーーーー

.

『おにーちゃん、おにぃちゃん！』

夕焼けの空。赤く染まった海べりで、幼い少女は小さな手足を必死に動かして少年に続く。

『……うるさいな。ぼくはお兄ちゃんじゃない。母さんが病気で死んで、父さんも研究中の事故で死んで、アムジスさんが養父として後見人になってくれたんだ。18になったら教会も出てく。ムリに兄妹ぶらなくても』

『おにいちゃん出てくの……？』

『だーかーら』

少女は難しい言葉は余り頭に入って居なかった。ふくふくとした顔をくしゃりと歪めて、目の端に涙を滲ませる。金髪の少年は苛々と持っていた買い物袋を握り込んだ。

刹那、少女は小さな石につまづいて、「びたん！」と音が鳴る程盛大に転ける。幼児だからドン臭いのか、少女が生来ドン臭いのかは判然としない。顔から転けた少女はいよいよグズグズ言い出して、大粒の涙をぼろぼろと溢した。

『全くなんでそう……お前は！』

少年はほとんど怒鳴りながら少女に近付いた。置いていきたいのは山々だが、自身の養父の実の娘だ。どうしたって泥だらけで道端に放置するわけには行かなかった。

手を差し出せば、水の膜の張った黒い瞳がきょとんと少年を映す。それからもう一回口元にくしゃりとシワが寄って、堪えきれなかったみたいに少女から嗚咽が漏れた。

『いだいおにいちゃあん』

『はいはい、そうだな。痛かったな』

『おんぶ』

『は？』

渋々、愚図る少女をおぶれば背中がすぐ濡れる。少年は数瞬前の行動を既に後悔しながら歩を進めた。ひとまわりもふた回りも小さい癖に、泣いている塊は熱くて重い。

『……アムジスさんのお話の女神様でもあるまいし、泣き続けるのやめろよみっともない』

少女はそれには答えなかった。ただぎゅっと少年におぶさりながら、しゃくりあげる声の合間に言葉を紡ぐ。

『おにいちゃ、ありがと、出てかないで。
ユウ、泣かないから。ペルおにいちゃん。

＿＿＿ずっと、おにいちゃんでいて』

.

【これまでのあらすじ】→