epilogue ページ29
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葉が赤く色付き、空気の匂いが変わる初秋の頃。
その日、国木田独歩は後悔していた。
同僚であり相棒の太宰治が、一月に一度ふらりと消える。否、それは何時もの事でしか無かったが、その日は必ず外套を置いて消えるのだ。発信器を仕込んだそれを、知ってか知らずか脱いでから居なくなる奴の行動はもはや確信犯じみていて、何をしているのか尻尾を掴んでやると意気込んで居たのは僅か数刻前。
国木田は小さな病院に居た。知らない女の名前が書かれた病室の前に。踏み込んでは成らない事だった、と気付くのが遅かった。
今この瞬間この場所で、太宰と鉢合わせて仕舞ったのだ。「奇遇だね」なんて声をかけられたが恐らく偶然だとは思って居ないだろう。
だからと云って善い言い訳など思い付かない。「奇遇だな！」と声を上擦らせて云うのが関の山だ。だが、太宰は深くは事情を聞かず、「入る？」と中を指し示す。
断れる訳も無く背を丸めて入った其処は個室だった。幾つもの機械と管に囲まれたその真ん中で、一人の若い女が眠る。大人に成りきれないその顔は、未だ少女と呼んでも差し支えが無い。
「……この子は」
「私の昔の友人の大切な人でね。Aちゃんって云うんだけど、この子も友人に想いを寄せていた。所謂両想いって奴かな。
だけどその友人が死んですぐ、線路に飛び出して意識不明だ」
その頃彼女は高校の1年生だった。
今は大学の歳だから、4年になるのかな。
目の前の男がそんなことを淡々と云うものだから、思わず国木田は目を剥いた。並々ならぬ事情があるのは一見して分かったが、何ともやりきれない話だった。
「自ら命を絶とうとしたのか？」
一度は教職に就いていた身だ。そんな話を聞くことも、関わることも無かった訳では無い。だが、そう言う人間を前にしても、気の利いた言葉等出てこないのだ。
太宰は只の確認でしか無い言葉を気にする風も無く「どうかな」と。
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市(プロフ) - 私の乏しい語彙では表せないくらい素晴らしい文章です……！ (2018年10月18日 16時) (
レス) id: 1ef65eb65d (このIDを非表示/違反報告)
オワリ - コメント失礼します。紡がれる文章と物語、とても素敵で私の好みにどんぴしゃりでした。私の語彙力がなく上手く自分の感情を文字にできないのですが、素晴らしい話だと思いました。勝手ながら、応援させていただきます。ありがとうございました。 (2018年1月3日 23時) (レス) id: 904d1ac963 (このIDを非表示/違反報告)
ラシェーヌ(プロフ) - こんな素晴らしい小説を読ませてくださってありがとうございました！！ (2018年1月3日 16時) (レス) id: dd1aad4bf1 (このIDを非表示/違反報告)
ラシェーヌ(プロフ) - コメント失礼します。とても美しいお話でした！ 織田作さんと彼女のかけ合いが素晴らしくピッタリで、最後の国木田さんと太宰さんの会話も「蒼の使徒」を思い出してうるっときました。とにかく泣きました！ (2018年1月3日 16時) (レス) id: dd1aad4bf1 (このIDを非表示/違反報告)
みかこ(プロフ) - 悠誠様からコメント頂けるなんて…態々ありがとうございます涙中々に悲しめの最後になってしまいましたが、そう言って頂けると幸いです！私こそこれからも応援させて頂きたいです！本当にありがとうございました！ (2017年12月16日 22時) (レス) id: 243d49e4e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：みかこ | 作成日時：2017年10月22日 16時
