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『織田作さんが居なくなっちゃったら。私は探しますよ』
「探す?」
『ええ。探して追いかけて、連れ戻します。例え何処に居ても』
ーーー何をしてでも。
かりり、木を擦るペン先の音に混じり、残暑の蝉が足掻くように鳴く。視線を下げたまま狐に摘ままれた様に目を丸くした彼は、少し遅れてくつくつと喉の奥で笑いを溢した。
「……それこそよっぽど愛の告白らしい」
『分かっちゃいました?』
「大人をからかうな」
『子供を子供のままだと思ってる方が悪いんです』
紙を放り出し冷たいカフェオレを飲み下せば、くらりと痛みを伴う甘みが喉を焼く。何時もより砂糖は多め。「ただ」甘いだけのそれは噎せ返りそうな熱気に心地よく染み込んで。
(嗚呼、もっと喉が乾いて仕舞いそうだ)
そんな後の事をぼんやり考えながら、私は武骨で大きな手に指を滑らせた。織田作さんはぴくりと爪を小さく弾き、その後は案外抵抗も無くその指を私の手に絡ませる。
少しずれて鳴った鈴の音は微かに篭り、お互いの手首から滑るように揺れた。
『鈴の音でも辿っちゃいましょうか。もしも織田作さんが居なくなった時には』
でも、居なくならないで下さい。
分かるか、分からないか。
口だけ動かして彼の瞳を見上げれば、ぱちくりと瞬きを一つ。
読唇術も出来るのか。音無しの可笑しな文脈に困った様に唇の端を上げ、そしてそのまま口を開くのだ。
「善処しよう」
肯定しているようで酷く曖昧。答えをぼかすような真ん中言葉。嘘でも、善いのに。嘘でも「居なくならない」と云ってくれれば其れで善いのに。
『ねぇ織田作さん。優しさってたまに残酷なんですよ』
紙に黒鉛を走らせ浮かんだ文字を、見られる前にぐしゃりと潰した。何か言いたいことがあったのか?聞いてくる彼に首を横に振る。
『書き損じ』
「……そうか」
短な口パクすら拾い上げてくれた貴方の目の前で、紙の切れ端をゴミ箱に棄てた。
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市(プロフ) - 私の乏しい語彙では表せないくらい素晴らしい文章です……! (2018年10月18日 16時) (レス) id: 1ef65eb65d (このIDを非表示/違反報告)
オワリ - コメント失礼します。紡がれる文章と物語、とても素敵で私の好みにどんぴしゃりでした。私の語彙力がなく上手く自分の感情を文字にできないのですが、素晴らしい話だと思いました。勝手ながら、応援させていただきます。ありがとうございました。 (2018年1月3日 23時) (レス) id: 904d1ac963 (このIDを非表示/違反報告)
ラシェーヌ(プロフ) - こんな素晴らしい小説を読ませてくださってありがとうございました!! (2018年1月3日 16時) (レス) id: dd1aad4bf1 (このIDを非表示/違反報告)
ラシェーヌ(プロフ) - コメント失礼します。とても美しいお話でした! 織田作さんと彼女のかけ合いが素晴らしくピッタリで、最後の国木田さんと太宰さんの会話も「蒼の使徒」を思い出してうるっときました。とにかく泣きました! (2018年1月3日 16時) (レス) id: dd1aad4bf1 (このIDを非表示/違反報告)
みかこ(プロフ) - 悠誠様からコメント頂けるなんて…態々ありがとうございます涙中々に悲しめの最後になってしまいましたが、そう言って頂けると幸いです!私こそこれからも応援させて頂きたいです!本当にありがとうございました! (2017年12月16日 22時) (レス) id: 243d49e4e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みかこ | 作成日時:2017年10月22日 16時