Dragon girl【ファンタビ】

トランクと脱出 ページ30

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茶色いガラス瓶がずらりと並んだ採集棚、薄汚れた幾多の餌袋。


一列に並んだ分厚い専門書と山積みの原稿、使い古したタイプライターがいかにも学者じみた、雑多な空間は低い天井に塞がれて部屋の体を成している。


「なんかこう、帰ってきた！って感じね」


忙しなく辺りを見回すジェイコブと、マートラップの傷の手当てをするニュートを横目に、メラは深く息を吐いた。着ていたキャメルのポンチョを脱ぎ捨て、レースのブラウス１枚の姿で伸びをする。


──これでやっと羽が伸ばせる！


ぐぐ、と背中を反らせた途端に起き上がる骨格。コウモリの羽に似たそれがブラウスをまくり上げたと同時、丸薬を飲み込んだばかりらしいジェイコブがむせ込んだ。───それはもう、思いっきり。


「ほらメラ、お客さんが居るのにお行儀が悪いよ。背中が丸見えになるって何度も」

「仕舞いっぱなしは肩が凝るの！──あと彼がむせたの私のお行儀の問題じゃないわ、絶対」


はね、はね、うろことうわ言の様に繰り返す彼は何かに取りつかれたみたいだ。


サスペンダーにシャツのみの軽装で、皆のご飯の生肉をぶつ切りにする作業を始めたニュートは「みたいだね」と苦笑する。


「大丈夫だよコワルスキーさん。メラは半分ドラゴンだけど、むやみに人を傷付けたりはしないから」


「ドラゴンって、……お嬢ちゃんの冗談じゃなかったのか？」


「ええ。でも本物みたいに攻撃に特化して無いの。せいぜい変な特技が多い位───

───ちょっと、生肉と私を交互に見ないでおじさま。私のじゃないわ」


ニュートに渡された肉入りバケツを手に、おずおずと差し出そうとしてくるジェイコブを睨んだ。


──食べれないこともないけれど、レディは生肉なんて口にしないの！


メラはこっそり笑ったニュートにも恨みがましい視線を送り、バレてないと思ったのか──彼がそのまま謝罪も無くスウーピング・イーヴルの毒液について説明し始めるのを見て更に膨れた。


「薄めれば薬になるって言うなら、マスターの女心分からないのも治せれば良いのに！」


ニュートの話を聞きつつも、ちらちらとこちらを見ながら「ごめん」とジェスチャーをくれるジェイコブと対比して、メラは大きく嘆息する。


「メラ、彼にトランクを案内するから君も来て───えっと、何だか怒ってる？」


背中の羽が不満げにパタパタ揺れているのを見て、ようやく不機嫌に気付くのが彼だった。

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