Ep.28 カップラーメン ページ28
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手に提げていた袋を置き、公園のベンチに腰掛ける。
コンビニのポットでお湯を入れたカップラーメンはちょうど食べ頃のはず。割り箸でかき混ぜ、一人きりのお昼ごはん。
「……やっぱ……」
その続きはわざわざ声にはしなかった。黙々と食べ進める。
空全体には薄いグレーの雲がかかっていた。
雨が降る予報はないが、どことなくどんよりとした暗さだ。気分がいまいち晴れないのもそのせいだろうか。
「Aさん」
ぼーっと空を見上げていると、背後から少年の声が呼びかけた。
ベンチの背もたれ越しに振り返ってみる。
「ああ、江戸川くん!」
いつものように手を振ってみるが、彼の表情は明らかに固い。自首でも勧めに来たような顔をしてる。
何か、面白いことを聞かせてくれそうだ。
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「Aさんって……“甘さ”しか分からないんじゃない?」
隣に座って開口一番に言うと、Aは驚いたような素振りも見せず小さく肩をすくめる。
Aが食べているのはどこでも見るようなカップラーメンだった。
レジ袋と割りばしのビニール包装がベンチに散らかっている。それよりも眉をひそめたかったのは、赤い容器に「激辛」とインパクト極大の字が躍るそれを、極甘党であるはずのAがなんの感慨なしに食べていたことだ。
その視線に気づいて自分の手元を見るA。
「あ、これ? 珍しいでしょ。やっぱ甘いもんばっかじゃバランス悪いしさ」
「……味、わかるの?」
「いやあ、これを味と言っていいのかわかんないけどね」
けらけらと笑う。いつものように。
やがてAは食べ終えたそれを置いて、レジ袋から紙タバコを取り出し「風下に来ないでね」と言ってから使い切りライターで火をつけようとした。
「Aさんは一年前、ある連中と戦った。運悪く出会ってしまったというのが正しいかもしれない」
手が止まった。
「そこで大怪我を負った。奴らからは運よく逃げ切れたものの、その代償として失ったのが……甘味以外の“味覚”だ」
少し遠くの地面に目を落としたまま、タバコの先に火種を灯してライターをしまう。
コナンはAの反応を待った。Aはコナンを見ずに空へ煙を吐いた。
「へー……なんで分かったの?」
「梓ねえちゃんに聞いたんだ。昔はよくコーヒーを飲みに来てたって。だからポアロに行かなくなったんだね、コーヒーの味が分からなくなったから」
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上坂 - 夢主好き💛 (2023年1月19日 21時) (レス) @page14 id: f311cd81c1 (このIDを非表示/違反報告)
泉 - 夢主好き💜 (2023年1月4日 18時) (レス) @page32 id: 5bd30ec6cb (このIDを非表示/違反報告)
なぎ(プロフ) - ( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆(エモジシクジッタタメサイソウイタシマス) (2022年12月13日 3時) (レス) id: 6fdcf214e0 (このIDを非表示/違反報告)
なぎ(プロフ) - おめでとうございます!!!!!( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆ (2022年12月13日 3時) (レス) @page25 id: 6fdcf214e0 (このIDを非表示/違反報告)
なぎ(プロフ) - はじめまして!ほろにがクラゲ★様いつもの楽しみに読ませていただいております。本当にコナンの世界に出てきそうな感じの夢主さんでこれからの展開にワクワクしております。卒業試験頑張って下さい!! (2022年12月1日 15時) (レス) @page13 id: 33a5069289 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2022年11月25日 16時