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Ep.40 名前 ページ40

それ以上は何も言えなかった。

そもそも、この状況で信用しろと言う方が無理な話なのだ。自分の命よりも大切なものがあるならなおさら。

『すみません、あなたを信用できないわけじゃないんです。でも……』

「いや……ううん、忘れて。今のは私が勝手言っただけだね」

『それじゃあ……』

「あ、ちょっと待って!」

通話を切られそうになって、私は早口に告げた。

「私はAA、さっきも言ったけど情報屋なんだ。もし何か困ったらすぐに連絡して! ……で、ついでなんだけど……やっぱりあなたの名前、聞いてもいい?」

静寂は数秒、十数秒と時を刻んだ。このまま受話器を置く音がしてもおかしくない時間を、私はただ待った。

救う側と救われる側という、偶然が繋いだ縁。この電話が終わればもう一生交わることはないんじゃないかと予感してしまうほど細く不確かな一本の糸。

もしかすると私は、それを繋げていたいと思ったのかもしれない。

他には何も聞こえない空白の世界。

ホワイトノイズに紛れて、ごく小さな囁きが耳に残った。



『……宮野です。宮野明美』



それきり、彼女から連絡が来ることはなかった。

──────────


「……懐かしいなあ」

夜パフェ専門店の営業時間は普通の喫茶店とは大きく異なる。深夜、カウンターに鎮座するワイングラスは私が注文したいちごパフェだ。

ぽつりと零した言葉を、隣席でオレンジパフェを物珍しそうに見下ろしていた風見さんが耳ざとく聞き付けた。

「懐かしい?」

「ああいや、大したことじゃ……それより私に私に付き合って無理に食べなくてもいいんだよ、風見さん」

「無理などしていないが……こんな店が流行っているとは……」

「飲みのシメに甘いものを食べたい人って割といるみたいなんだよねえ」

「……それで、何が懐かしいと?」

「あ、そこ気になるんだ」

ふふ、と静かに笑みを零す。

「私が甘いものばっかり食べる理由は風見さんも聞いてるよね? 私自身がそれに気付いたのは、病院でデザートに出てきたいちごのムースだったからさ。イチゴつながりっていうか」

「え? 後遺症の検査とかではなく?」

「いや言ってない言ってない! お医者さんに言ったら記録が残っちゃうじゃん。敵の多い商売だからさ」

私は軽く笑いながらテーブルに小箱を差し出した。

「はい、これ。例のヤツ。暗号化の解除キーはあの人に渡したよ」

「ああ」

「よーしこれで仕事完了! パフェ食べよー!」

Ep.41 いちごパフェ→←Ep.39 内部者



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上坂 - 夢主好き💛 (2023年1月19日 21時) (レス) @page14 id: f311cd81c1 (このIDを非表示/違反報告)
- 夢主好き💜 (2023年1月4日 18時) (レス) @page32 id: 5bd30ec6cb (このIDを非表示/違反報告)
なぎ(プロフ) - ( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆(エモジシクジッタタメサイソウイタシマス) (2022年12月13日 3時) (レス) id: 6fdcf214e0 (このIDを非表示/違反報告)
なぎ(プロフ) - おめでとうございます!!!!!( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆ (2022年12月13日 3時) (レス) @page25 id: 6fdcf214e0 (このIDを非表示/違反報告)
なぎ(プロフ) - はじめまして!ほろにがクラゲ★様いつもの楽しみに読ませていただいております。本当にコナンの世界に出てきそうな感じの夢主さんでこれからの展開にワクワクしております。卒業試験頑張って下さい!! (2022年12月1日 15時) (レス) @page13 id: 33a5069289 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2022年11月25日 16時

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