Ep.128 これでいい? ページ28
中森警部が顔を真っ赤にして息を吸う。私は真っ先に耳を塞いだ。
「なにィ!? 機関室付近にキッドが現れただと!?」
会場を歩き回る人々がさっと振り返って警部を見やる。若い女性スタッフが驚いて手を滑らせ、カーペットに落下したグラスが割れた。
……あれは警部が謝った方がいい事案だろ。
パーティーは既にお開きになっていて、片付けをするスタッフが往来する以外にはもう私たちしかいなかった。
「うん、さっきの停電はキッドの仕業だよ! 一時的に照明をやられただけだったけど……その時の暗闇に乗じて逃げたんだ!」
「クソォ……ヤツめ、もう小細工を仕掛けていたのか!」
「この船の船医さんに化けてたんだ。そうだよね、A姉ちゃん?」
「え? ああ……ごめん、なんて?」
「んん? 待てよ……アンタ、この坊主と一緒にキッドと鉢合わせたんだったな? 暗闇に乗じてってことは……その隙にキッドと本人が入れ替わった可能性も……」
「そういえば……今、警部さんが怒鳴る前にA姉ちゃんは耳を塞いでたけど……普通、警部さんのことをよく知らないとそんなことしないよね?」
「ち、ちょっと待ってよ! そんなわけないじゃない!」
口を挟んだのは、会場でパーティーを楽しんでいた園子。蘭や子供たちも周りにいて、警部へ詰め寄る園子に「そーだそーだ!」と元太たちが声を揃えて加勢した。
「キッド様は紳士なんだから、女の子の服を剥ぐような真似ぜーったいにしないわ! ほら! この子、ちゃんとさっきと同じワンピースでしょ!?」
「え、そこ……?」
「し、しかしなあ……」
「……そんな目で見られても」
静かに溜め息を吐く。
少し気が立っていたのは否定できない。五日間というタイムリミットは自動的に迫ってくるし、父さんもどこへ行ったか分からない。こうしている間にも船の中で、あるいは外で何かが起きているかもしれない。
私は無言で踵を返して少し離れ、割れたグラスを片付けていた女性スタッフに背後から声をかけた。彼女の肩越しに破片を一つ拾い上げる。
その場の人間が注視する中、拾い上げたそれを自分の頬に当てた。
「お、お姉さん!?」
叫ぶように声を上げたのは歩美ちゃんだった、と思う。分からない。正直、そこまで気に留めなかった。
一瞬の躊躇いのあと、線を引くようにして滑らせた。
鋭い痛みが走る。
そっと傷口に触れると指先に赤い液体が滲んだ。視線を上げて警部を見つめる。
「……これでいい?」
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ほろにがクラゲ(プロフ) - 莉久さん» わーありがとうございます❗無理なく書いてるものなので、無理なくお楽しみいただければ嬉しいです٩(*´∀`*)۶ キッド様のキザさ、出せているでしょうか…!?🙄(不安) (2022年8月29日 18時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
莉久 - こんにちは!なかなか時間が取れなくて、ちびちび読んでたんですけど、めっちゃくちゃ面白いです!素直に言って好きです。大好きです。コナンとも打ち解けて、……これからの展開が楽しみです!キッドがキザッ!好きッ!忙しいとは思いますが、更新頑張ってください! (2022年8月28日 16時) (レス) id: 28e45e7c9c (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - サワーさん» わわっ、最初からずっと…!お付き合いありがとうございます!お飲みくださる方々に楽しんでいただければそれが何よりです、最後まで頑張ります!💪 (2022年8月26日 17時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
サワー(プロフ) - ずっと最初から読んでいた小説がついにクライマックス…!これまでずっと書き続けてくださってありがとうございます!これからもご自身のペースで無理せず書き続けて頂ければと思います!私も毎回楽しみにしています! (2022年8月25日 22時) (レス) @page45 id: fbf43580c0 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 推しの財布さん» コメントありがとうございます!段々ややこしくなってきてしまったなと心配していたのでお褒めの言葉とっても嬉しいです…ε-(´∀`*)✨ (2022年7月24日 22時) (レス) @page31 id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2022年3月11日 12時