Ep.114 敵を騙すには ページ14
私は今、冷静だろうか。
「初めから偶然なんかじゃなかった」
周囲の音に消されないよう少し声を張る。
「裏切るとか何とかって話は私をこっち側に引き込むための口実だろ?」
返事はない。構わず続ける。
「変装は髪とそのサングラスだけ? それともこの世界に来た拍子にまるっきり違う身体でも手に入れた? 数年顔を合わせてないにしても親の顔が分からないなんて笑えるけどさ、どうも黒縁メガネの印象が強くて……」
「……悪いが、お前が何をそんなに怒っているのかオレには分からん」
「は?」
履いてたサンダルを全力で投げ付けた。それを顔の前で止め、男は呆れたような気配を見せる。
「いや、お前な……履物を飛び道具に……」
だがそんなものは欠片ほども気にならなかった。
「……考えてもみろよ……。昔っからいつだって厄介事ぶら下げていらん苦労ばっか振りまいてたクソ親父が忽然と消えたかと思えば……放り出された先の異世界で再会して……? なのに素性を隠してずーっと自分だけ訳知り顔で……それ全部ひっくるめて再会の喜びに変換できるほどの聖人に見えるか……?」
「……聖人には見えないな」
「いいか、これ以上の誤魔化しは通用しないと思え。アンタは誰だ」
改めて輪郭の曖昧なその男をじっと観察する。結局、奴の目元を一度も見たことがない。自分の父親がどういう顔だったか思い出せても、記憶の中の人物と口調も髪色も振る舞いも違うサングラス男と本当に別人かと聞かれたら、絶対にそうだとも違うとも言い切れない。
けれど、もはやそうとしか思えない。このくだらない妄想推理もそんなに的外れではないことを知ってしまった。
「そいつは野暮な質問だ」
「うるさい。よく見知ったアニメの世界に迷い込んでみればいるはずのないキャラクターがいて、主人公には行方不明の身内がいて、普通そこが繋がらないわけないんだよ」
「……ああ、そういう……」
「何?」
「いや……お前、なんでか昔から好きだったよなあ、あの漫画」
「やっぱりテメェじゃねーかクソ親父!」
もう片方のサンダルを投げ付けた。裸足になった。
「な〜にが勧誘だ、すっとぼけやがって! 私だって分かってたんだろ!? 最初から言えよ! どんだけ無駄なことしたと思ってんだ!」
「いやまあ聞いてくれ、こっちにも考えがだな……オレがいたのはこんな組織だし、敵を騙すにはまず味方からって言うだろ?」
「は? 味方?」
「え? 味方だよな?」
「死ねよ……」
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ほろにがクラゲ(プロフ) - 莉久さん» わーありがとうございます❗無理なく書いてるものなので、無理なくお楽しみいただければ嬉しいです٩(*´∀`*)۶ キッド様のキザさ、出せているでしょうか…!?🙄(不安) (2022年8月29日 18時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
莉久 - こんにちは!なかなか時間が取れなくて、ちびちび読んでたんですけど、めっちゃくちゃ面白いです!素直に言って好きです。大好きです。コナンとも打ち解けて、……これからの展開が楽しみです!キッドがキザッ!好きッ!忙しいとは思いますが、更新頑張ってください! (2022年8月28日 16時) (レス) id: 28e45e7c9c (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - サワーさん» わわっ、最初からずっと…!お付き合いありがとうございます!お飲みくださる方々に楽しんでいただければそれが何よりです、最後まで頑張ります!💪 (2022年8月26日 17時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
サワー(プロフ) - ずっと最初から読んでいた小説がついにクライマックス…!これまでずっと書き続けてくださってありがとうございます!これからもご自身のペースで無理せず書き続けて頂ければと思います!私も毎回楽しみにしています! (2022年8月25日 22時) (レス) @page45 id: fbf43580c0 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 推しの財布さん» コメントありがとうございます!段々ややこしくなってきてしまったなと心配していたのでお褒めの言葉とっても嬉しいです…ε-(´∀`*)✨ (2022年7月24日 22時) (レス) @page31 id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2022年3月11日 12時