Ep.145 船を降りたら ページ45
目を覚ましたのは、部屋が明るくなりだした早朝の頃だった。
ぼんやりとした不安感のようなものは相変わらず胸中に立ち込めていた。夢見も良くなかったような気がしてくる。
もそもそとベッドを降り、同じ部屋で寝ている蘭と園子を起こさないように窓際へ寄る。
最終日の空は薄曇りだった。
「(……船を降りたら、私は)」
これから私はどうしたらいい。
自分の心に従った上で何をすべきだ。
道の先が見えないわけじゃない。ただ、どの道を選ぶかに迷っている。どれもが後戻りの難しい道ばかりで、どれかへ踏み出してしまえば今度こそ取り返しがつかないとなんとなく予感している。
その手段のひとつとして、私は既に鍵を手に入れていた。
自分の枕の下に手を差し込んでコンタクトケースを取り出す。普段は保存液で満ちている容器だが、振るとカラカラと音がした。
左のフタを回して開く。
そこに鎮座する乾いた音の正体は、どこかで見たような赤と白のカプセル────毒薬、APTX4869。
「……」
ボックの正体を知ったあのとき、父さんが投げてよこしたケースの中身から抜き取ったものだった。
目的なんてない。ただ咄嗟にひとつを隠し持ってポケットに滑り込ませた。
もしかしたら父さんは気付いていたかもしれない。仮に分かっていて何も言わなかったのなら私が有効に使うべきだとも思う。
交渉材料にするのがいいだろうか。被験者が摂取した毒薬があれば、解毒薬の開発は飛躍的に進むだろう。工藤新一も元の姿に戻れるかもしれない。これを渡す代わりに協力しろとコナンに持ちかければ?
それとも切り札として持っておくのはどうだろう。他の方法も見付からず追い詰められたとき、私はこれを飲んで不確かな運命に賭ける。運が良ければ元の世界へ帰れるかもしれない。
たったひとつの鍵を使ってどの扉を開き、どの道へ歩を進めるか。
答えは出ない。
それでも今日、船は港へと着く。
決めなければならないのだ。
たとえ“最善”など初めから無いのだとしても。
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ほろにがクラゲ(プロフ) - 莉久さん» わーありがとうございます❗無理なく書いてるものなので、無理なくお楽しみいただければ嬉しいです٩(*´∀`*)۶ キッド様のキザさ、出せているでしょうか…!?🙄(不安) (2022年8月29日 18時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
莉久 - こんにちは!なかなか時間が取れなくて、ちびちび読んでたんですけど、めっちゃくちゃ面白いです!素直に言って好きです。大好きです。コナンとも打ち解けて、……これからの展開が楽しみです!キッドがキザッ!好きッ!忙しいとは思いますが、更新頑張ってください! (2022年8月28日 16時) (レス) id: 28e45e7c9c (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - サワーさん» わわっ、最初からずっと…!お付き合いありがとうございます!お飲みくださる方々に楽しんでいただければそれが何よりです、最後まで頑張ります!💪 (2022年8月26日 17時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
サワー(プロフ) - ずっと最初から読んでいた小説がついにクライマックス…!これまでずっと書き続けてくださってありがとうございます!これからもご自身のペースで無理せず書き続けて頂ければと思います!私も毎回楽しみにしています! (2022年8月25日 22時) (レス) @page45 id: fbf43580c0 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 推しの財布さん» コメントありがとうございます!段々ややこしくなってきてしまったなと心配していたのでお褒めの言葉とっても嬉しいです…ε-(´∀`*)✨ (2022年7月24日 22時) (レス) @page31 id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2022年3月11日 12時