Ep.138 ひと夏の思い出のように ページ38
船の中はひとつの大型ショッピングモールのようだった。
無数のショップ、娯楽施設、飲食店、様々なサービスが軒を連ね船の中心となっている。
とは言っても彼らに連れられて回ったのはほとんどが一度は通った場所で、立入禁止区画を含めどこに何があるかも船に乗る前から知っていた。
けれど、見え方はまるで違った。
「あのお店、水着売ってる! ねえねえ、明日Aお姉さんも一緒にプール行こうよ!」
「あ、うん……」
「やったー!」
元気な子供たちを追いかけて歩き回ったり、ひとつ歳上の女子高生に混ざってアクセサリーや香水を物色したり、海の見えるテラス席に収まっておしゃべりを楽しんだり。
それは一人きりで過ごした時間より遥かに長いような、けれど惜しいほど短すぎるような気もした。
こんな私にも友達はいる。月並みに遊ぶこともある。
当たり前だったそんな日々を思い出した。
「……このままここにいてもいいかもな」
そう呟いたのが本心でないことは分かっていた。
ただ、なんとなくそう口にしたくなるくらいには、前の世界にいた頃や昨日までの自分からしても信じられないくらい限りなく平穏に近い一日だった。
夏空は茜色に染まり、グラスの結露がコルクのコースターに伝う。
周囲には誰もいない。朝からずっと誰かと一緒だったから、一人の時間が随分と久しぶりのような感覚に囚われた。
きっと私は忘れない。決意をくれた今日という日を。
これは私たちだけの事情だから。
私たちだけで完結する、ひと夏の思い出のようにいずれ色褪せてゆく不可思議な事象。
この場所は悪くないけれど居続けるわけにはいかない。私自身の願いのためだけじゃなく、世界のあるべき姿、守るべき理として。
それは本来、願いや祈りなどとは関係ない唯一絶対的な法則のはずだから。
私は……必ず元の世界へ帰ろう。
出来れば誰にも関係なく、誰のことも害さず、一人でひっそりと全て終われるような方法で。
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ほろにがクラゲ(プロフ) - 莉久さん» わーありがとうございます❗無理なく書いてるものなので、無理なくお楽しみいただければ嬉しいです٩(*´∀`*)۶ キッド様のキザさ、出せているでしょうか…!?🙄(不安) (2022年8月29日 18時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
莉久 - こんにちは!なかなか時間が取れなくて、ちびちび読んでたんですけど、めっちゃくちゃ面白いです!素直に言って好きです。大好きです。コナンとも打ち解けて、……これからの展開が楽しみです!キッドがキザッ!好きッ!忙しいとは思いますが、更新頑張ってください! (2022年8月28日 16時) (レス) id: 28e45e7c9c (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - サワーさん» わわっ、最初からずっと…!お付き合いありがとうございます!お飲みくださる方々に楽しんでいただければそれが何よりです、最後まで頑張ります!💪 (2022年8月26日 17時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
サワー(プロフ) - ずっと最初から読んでいた小説がついにクライマックス…!これまでずっと書き続けてくださってありがとうございます!これからもご自身のペースで無理せず書き続けて頂ければと思います!私も毎回楽しみにしています! (2022年8月25日 22時) (レス) @page45 id: fbf43580c0 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 推しの財布さん» コメントありがとうございます!段々ややこしくなってきてしまったなと心配していたのでお褒めの言葉とっても嬉しいです…ε-(´∀`*)✨ (2022年7月24日 22時) (レス) @page31 id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2022年3月11日 12時