Ep.116 夕闇の片隅 ページ16
「あー……え?」
飲み込むのに時間を要した。
何言ってるんだこいつ。え? 急に……何?
もしボックが父だったとしても、まさかそこまで異世界に順応しているとは思ってもいなかった私の脳は途端に混乱を極めた。
「鍵? APTX4869が? えっ……なに? ……そもそもどっから持ってきたの?」
「ああ、ちょっと工夫してな。何せ開発者が持ち出すのも簡単じゃないシロモノだ。盗み出されたものを一旦回収する過程で数をちょろまかした」
「……じゃあ毒薬を盗んで追われてる男とボックはグル……待って。これが鍵ってことは、薬を飲んだら向こうに帰れる、みたいな話……?」
「安直だがそういうことらしい」
「……嘘なら十中八九死ぬ毒薬、か」
なんとも信じきれない。そんな都合のいい話があるのだろうか。
……って、待てよ?
ボック……父が協力を持ちかけた男とは、米花シティホテルで死んだことになっていた例の逃亡者のことだろう。そしてその人は今この船に逃げ込み、組織に命を狙われている。
その人物……建前上は、私たちが殺すべき標的だ。
「……ちょっと待って。どうしてその人は父さんに協力を?」
「条件を出したのさ。奴が組織から足を洗いたいってんで、それを手助けするってな」
「無理だ、この船からは降りられない。五日のうちに遺体が上がらなければ組織が怪しむ。海に捨てたと言ってもきっとジンやラムには通用しない」
「……そうかもしれないな」
「そうかもしれないって……ねえ、父さん、アテはあった? その約束を反故にしなくて済む確信はあった? それ以前にその人……まだ、生きてるのか?」
波の音に紛れて、歓声がかすかに聞こえた。周囲はますます暗くなり、黄色味を帯びた照明が船内外を照らす唯一の灯りとなりつつある。
「生きてるさ。今は船の乗務員に扮してる」
そうして写真を渡された。
一瞥し、見たこともない顔であることを確認して、もう一つ問いをぶつけた。
「……まさか、本当に殺すつもりじゃないよな?」
──────────────
空のグラデーションは夜の藍色に染まりつつある。西の空に僅か残ったオレンジ色が、今にも消えてしまいそうに薄らと水平線上で留まっている。
コナンはAを見付けた。
海に面した遊歩道を有するプロムナードデッキの、夕闇に沈む片隅。
声をかける前に身を潜めて様子を伺う。どうやら彼女は誰かと対面しているようだった。
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ほろにがクラゲ(プロフ) - 莉久さん» わーありがとうございます❗無理なく書いてるものなので、無理なくお楽しみいただければ嬉しいです٩(*´∀`*)۶ キッド様のキザさ、出せているでしょうか…!?🙄(不安) (2022年8月29日 18時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
莉久 - こんにちは!なかなか時間が取れなくて、ちびちび読んでたんですけど、めっちゃくちゃ面白いです!素直に言って好きです。大好きです。コナンとも打ち解けて、……これからの展開が楽しみです!キッドがキザッ!好きッ!忙しいとは思いますが、更新頑張ってください! (2022年8月28日 16時) (レス) id: 28e45e7c9c (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - サワーさん» わわっ、最初からずっと…!お付き合いありがとうございます!お飲みくださる方々に楽しんでいただければそれが何よりです、最後まで頑張ります!💪 (2022年8月26日 17時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
サワー(プロフ) - ずっと最初から読んでいた小説がついにクライマックス…!これまでずっと書き続けてくださってありがとうございます!これからもご自身のペースで無理せず書き続けて頂ければと思います!私も毎回楽しみにしています! (2022年8月25日 22時) (レス) @page45 id: fbf43580c0 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 推しの財布さん» コメントありがとうございます!段々ややこしくなってきてしまったなと心配していたのでお褒めの言葉とっても嬉しいです…ε-(´∀`*)✨ (2022年7月24日 22時) (レス) @page31 id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2022年3月11日 12時