Ep.10 ただ他人事のように ページ10
────気ッ持ちわる……。
死ぬほど体調悪い。気分が死んでる。
目の前で死体を……それも凄惨な血まみれ死体を見るのは初めてだった。当たり前だ、私は生粋の日本生まれ日本育ちな現代っ子なのだから。
ただ、どこかで「あ、そーいう感じね」と一歩引いた自分がいることで、多少なりとも正気を保つことができていた。
ここは私にとって漫画の中の世界。それなら、死体を見るのは初めてじゃない。なんなら割と頻繁に見ていたしたぶん百単位で見たことある。
まだ夢見心地な部分と、覚醒しきった意識がせめぎあって融合して、私はどうにも矛盾した気持ちでいた。
背後から足音が響くのと、サイレンが遠くに聞こえ始めたのが同時だった。
踊り場を踏んだ気配がして、私は肩越しに振り返る。
江戸川コナンがいた。
「あ……」
私を見たメガネの子供は、そう短く零して足を止めた。私が出口を塞いでいるのだ。カバンを持って立ち上がり道を開けると、ようやく残りの階段を降りきって外へと出てきた。
「おいコナン! どうだったんだよ、五階に行ったんだろ?」
「ああ……え? オレ、五階に行くなんて言ったっけ……」
「そんなの一目瞭然ですよ! 窓を見れば!」
「今日は日曜日だもんね!」
「なんだ、灰原の入れ知恵かよ?」
「違うわ。私じゃない」
「え? じゃあ……」
灰原さんがふいに視線を寄越すと、コナンはそれを追ってこちらを見た。一対一で目が合って、彼は子供みたいな丸い目を更に丸くした。
とはいえあれは、推理とも推測とも呼べる代物ではない。ただ思いついたことを、思いつくままに言っただけ。目の前にある事実を自分の言葉に替えただけ。だからこそ、彼もそれ以上に取り立てて反応することはなかった。
……内心はどうだか知らないけど。
サイレンがうるさいくらいになった頃、現れた救急車が路肩へつけて止まった。微かにパトカーのサイレンも聴こえる。
救急車のサイレンを聞き付けて、周囲の家や建物からなんだなんだと住人が顔を出し、通りすがりの他人が死体を一目見ようと言うかのように群がり始めた。なんとも不謹慎な態度である。けれどまあ、他人事で不謹慎なのは私も同じなので何も言えない。
私は花壇の縁に腰を下ろして、救急隊が降りてくるのを眺めていた。
ただ、他人事のように眺めていた。
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ほろにがクラゲ(プロフ) - カミレさん» 以前から!ありがとうございます🙏😊✨自分が好きなものをずっと書いてますが、喜んでくれる方がいると思うととっても嬉しいです…!✨ またよろしくお願いします! (2021年11月2日 15時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 以前からほろにがクラゲさんの作品が大好きです。久しぶりに占ツクに来てみたら、新しい作品があってとっても嬉しいです。お話の構成とスピード感、尊敬してます。今回も面白いお話をありがとうございます! 応援してます! (2021年10月29日 14時) (レス) @page14 id: 6ee71cea05 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - ふれあさん» コメントありがとうございます!ホントですか…嬉しいです…🥺更新頑張ります! (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 鈴凛さん» コメントありがとうございます!お好きと言っていただけると自信になります…✨✨ (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - snowcatさん» コメントありがとうございます❗あっという間…好み…とっても嬉しいです…😊✨これからも頑張ります! (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2021年9月7日 21時