Ep.32 視線の正体 ページ32
────………………。
それから……。
ふっつーーーに電車乗ってた。
一時間と十分。東都環状線を一周して降りた駅は、当然のごとく元通りの米花駅。
何事もなかったことにほっとしつつ、何事もないんかいと心の中で突っ込む。
「何がいけないんだ……？ 寝なかったから？ 人が多かったから？ いや、そもそもあれが偶発的なものだったら再現のしようがないのかも……」
釈然としない気持ちでホームに立ちつくす。
どうしよう。
いや、どうしようもこうしようもない。試すだけ試したのだから、次は他のやるべきことをやればいい。
そうだ、メガネ。杯戸駅前のデパートにメガネ買いに行こう。
そうと決めて気を取り直し、次の電車に乗り込んだ。なんとも言えない虚しさでいっぱいで、何か意味のあることをしていないとうっかり落ち込みそうだ。これで元の世界に帰るアテは潰えたということか。
空いてたら座ろうと車内を見渡したそのとき。
ふいに視線を感じた。
見えないところからの気配ではない、視界のどこかに入った何者かからの視線。
しかし妙なのは、誰とも目が合わなかったことだ。
私に気付かれないように私を見ている……これではまるで────
「(尾行……？)」
背後でドアが閉まる。私は何事もないような態度で、ドアのそばに寄りかかってスマホを取り出した。
適当にいじるフリをしながら、真っ暗の画面を少しずつ傾けて、そこに移るモノクロの像から車内の様子を探る。
…………分からない。依然、気配のようなものはある気がするけれど、視線の正体が掴めない。
やがて車内放送があって、電車が減速を始める。緩やかにホームに滑り込み、停止して、すぐそばのドアが開く。私はそのままスマホ画面を眺め続ける。発車メロディが鳴り終え、スピーカーから放送が響く。
────扉が閉まります……駆け込み乗車は────
車扉が両側から滑り出した瞬間。
閉まりかけた扉の隙間を抜けてホームに降り立った。
猫一匹入る間もなくすぐ後ろで扉がピタリと閉まる。肩越しに振り返って、同じ車両から急いで降りた人間がいないことを確認する。
ホームドアが閉じて、列車が動き出した。
視線を感じた。おそらくは車内から。それでも、こちらを見ている人間が誰かは分からなかった。
「誰だ……？」
気のせい……と片付けてしまうには、不穏すぎるような。
なんとも言えない些細な不安だけが胸に残っていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1422人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ほろにがクラゲ(プロフ) - カミレさん» 以前から！ありがとうございます🙏😊✨自分が好きなものをずっと書いてますが、喜んでくれる方がいると思うととっても嬉しいです…！✨ またよろしくお願いします！ (2021年11月2日 15時) (
レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 以前からほろにがクラゲさんの作品が大好きです。久しぶりに占ツクに来てみたら、新しい作品があってとっても嬉しいです。お話の構成とスピード感、尊敬してます。今回も面白いお話をありがとうございます！ 応援してます！ (2021年10月29日 14時) (レス) @page14 id: 6ee71cea05 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - ふれあさん» コメントありがとうございます！ホントですか…嬉しいです…🥺更新頑張ります！ (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 鈴凛さん» コメントありがとうございます！お好きと言っていただけると自信になります…✨✨ (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - snowcatさん» コメントありがとうございます❗あっという間…好み…とっても嬉しいです…😊✨これからも頑張ります！ (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ほろにがクラゲ
| 作成日時：2021年9月7日 21時
