Ep.03 信じられない ページ3
定期入れを受け取って、猛烈な勢いで走り出した。
だって、そんなわけない、信じられない。有り得ないじゃないか。
すれ違う人と肩をぶつけて、カバンがぶつかって、相手が振り返るのも見ないフリをして駆け抜ける。
ここが米花駅? じゃあ、それじゃあ、私は、夢を……?
「きゃっ!」
「っ……」
ようやく外────というとき、また人にぶつかった。そのときあまりに派手に衝突したものだから、私は自分が走っていた勢いで弾き飛ばされ、よろめいた挙句尻もちをついた。
「だ、大丈夫ですか?」
すっとしなやかな手が差し出され、私はぶつかった相手の顔を見上げた。
────……。
声が詰まった。それ以上が出てこなかった。
上手く呼吸ができない。
しばらく、瞬きすら忘れた。
あまりに非現実的であったものだから、その人の瞳を見詰める以外に何もできなかった。声にならなかった言葉が、頭の中で反響する。
────…………
「(……い、いやいやいや。訳わかんない……)」
これは何なんだ? 幻覚? 白昼夢? ただの夢?
それとも私は、まさか、漫画の中の世界にでも────
「ちょっと、大丈夫?」
横から顔を出したのは、これまた知った顔。毛利蘭の親友で、実家が大富豪の女子高生、鈴木園子……によく似ていた。似ているだけ、だと思う。きっと。
似てるだけ。似てるだけだ。
「……蘭、なんか固まっちゃってない? この子」
「う、うん……どうしたんだろ……。あっ、ちょっと!」
鈴木園子"らしき"女の子が口にした「蘭」という名前に反応して、私は弾けるように立ち上がり反対方向へと駆け出した。
背後から呼び止める声があったが、止まりはしない。今はできない。
何が起きているのか分からない。
「……そんな……、そんなわけ……」
駅を出た。
ロータリーが広がっていた。振り返ると、駅看板にゴシック体の文字が踊っている。「米花駅」。
「…………」
膝から崩れ落ちそうだった。
何に巻き込まれてしまったのだ、私は。
あの電車、アレが入口だったのか? この不思議な世界への。
またあの電車に乗れば帰れる? それとも全く違うどこかへ繋がる?
もしこれが現実だとしたら。
ひどく心細かった。
この世界は私を知らない。
この世界の誰もが……私のことを知らない。
1423人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ほろにがクラゲ(プロフ) - カミレさん» 以前から!ありがとうございます🙏😊✨自分が好きなものをずっと書いてますが、喜んでくれる方がいると思うととっても嬉しいです…!✨ またよろしくお願いします! (2021年11月2日 15時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 以前からほろにがクラゲさんの作品が大好きです。久しぶりに占ツクに来てみたら、新しい作品があってとっても嬉しいです。お話の構成とスピード感、尊敬してます。今回も面白いお話をありがとうございます! 応援してます! (2021年10月29日 14時) (レス) @page14 id: 6ee71cea05 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - ふれあさん» コメントありがとうございます!ホントですか…嬉しいです…🥺更新頑張ります! (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 鈴凛さん» コメントありがとうございます!お好きと言っていただけると自信になります…✨✨ (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - snowcatさん» コメントありがとうございます❗あっという間…好み…とっても嬉しいです…😊✨これからも頑張ります! (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2021年9月7日 21時