Ep.28 勝負に出た ページ28
私有地の塀を乗り越え、道を渡り、徐々に増えていく人の流れに沿って歩く。
商店街に出た時、ようやく息をついた。
……なんとか撒いたようだ。
「……正当性、あるよね。勝手に着いてきたようなもんだし……」
人混みに混ざりながら、腰に巻いていた上着の袖を外し、制服の上から着直した。髪もまとめていたのを解いてヘアゴムを手首に戻す。
彼らと出会ってから逃げるまでは、結べない長さではない髪を下ろしていた。上着もずっと着ていた。そのスタイルを突然変えたのは、一番初めの角を曲がった時だ。
後ろ姿の印象を変えるためだったが、人がそう多くなかったのと、相手が相手だったというのもあり、ほとんど不発に終わった。やはり探偵と言うだけあって鋭い。カバンの持ち方や歩き方も変えてみたが、結局バレたのでは意味がなかった。
次の角でもう一度勝負に出た。
あのカーブミラーだ。
車に乗りなれていない人間はカーブミラーに映る像の見方を誤解しやすい。凸面鏡なので実際よりも遠くに見えたり、反対に映ると分かっていても道路の左右を誤認することがある。
カーブミラーの角度を見て、私はあえて誤解を招く逃げ方をした。さすがに道路を挟んで反対側だとは勘違いしてくれなかったが、そもそも私が入ったのは横道ではなく、それよりもわずか手前にあったガレージと車との隙間である。
かつてはパワー系のバイクを乗り回していたであろう灰原さんの存在が不安だったが、まあ……上手くいったようだ。
彼らが横道へ入るのを車の影から見て、そのあとそっとガレージを出た。そして路地を適当に抜けて今に至る。
実は別に逃げなくても良かったんだけど……あのまま付き合ってると面倒くさそうだったからなあ。
あの時、尋ねられていたことの意味は分かっていた。江戸川コナンおよび灰原哀の正体について知っているかどうか、私は試されていたのだ。
どうすべきか分からなかった。知っている、と言ってもいい気がするけれど、あとから都合悪くなってやっぱり知りませんなんて言えないわけで。
彼らが私の存在をどう感じているのかも含め、慎重に考える場面かもしれない。だから何も答えずにあの場を離れた。そのせいで怪しまれたとしても、あんな話をして存在しない駅名表記の定期券なんてものを見せた時点で、彼らにとって今の私が怪しいことに変わりはな────……
……ん?
……。
………………そういえば。
定期、取り返してないな……?
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ほろにがクラゲ(プロフ) - カミレさん» 以前から!ありがとうございます🙏😊✨自分が好きなものをずっと書いてますが、喜んでくれる方がいると思うととっても嬉しいです…!✨ またよろしくお願いします! (2021年11月2日 15時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
カミレ(プロフ) - 以前からほろにがクラゲさんの作品が大好きです。久しぶりに占ツクに来てみたら、新しい作品があってとっても嬉しいです。お話の構成とスピード感、尊敬してます。今回も面白いお話をありがとうございます! 応援してます! (2021年10月29日 14時) (レス) @page14 id: 6ee71cea05 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - ふれあさん» コメントありがとうございます!ホントですか…嬉しいです…🥺更新頑張ります! (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 鈴凛さん» コメントありがとうございます!お好きと言っていただけると自信になります…✨✨ (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - snowcatさん» コメントありがとうございます❗あっという間…好み…とっても嬉しいです…😊✨これからも頑張ります! (2021年10月24日 17時) (レス) id: 353f334da7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2021年9月7日 21時