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左手の親指には小さな指輪があった。彼女は指輪に宝石を近づけた。珊瑚礁の青い海のような色をした宝石が指輪に近づく。すると、指輪の中の小さな石が全く同じ色へ変化したように見えた。

(……なんだありゃ。妙な石だな)

彼女はそれをじっと凝視したあと、しばらくすると諦めて手をおろした。

どうやら彼女もハズレだったらしい。それをなんとなく見届けてから、キッドは踵を返した。

「……あ、待って、怪盗キッド!」

場を去ろうとする背に、慌てたように声をかける。同類ではあっても本来なら敵対する立場だ。警戒したまま足を止めた。

「はい?」

「今、私たちには共通点があることが分かった。それはたぶん、"ある特定の宝石を探している"っていう点だと思うの」

そう言う彼女は既に表情をころりと変えていて、清々しいほどの笑顔を相手へと向けていた。

「ここでひとついい提案があります」

「……いや別に​───────」

「この怪盗ヴィオラと手を組まない?」

断ろうとしたのも聞かず、ヴィオラと名乗る彼女は楽しげに両手を広げた。

面倒くさいことになった。黒羽快斗はため息をつきたいのを堪え、「なるほど」と腕を組んでヴィオラの色めく瞳を見返した。

「同盟……か?」

「そう。手段が手段なだけに、お互い協力者は多くない……人手がないよりある方がいいのも事実で​───────」

「悪いけど、断る。確かにメリットがないとは言わないが……共犯者ってのは、多けりゃ多いほどリスクも上がるもんだろ」

考える余地もなく、門前払いに近い形で快斗はその申し出を蹴った。共犯関係を築いたあとのリスクももちろんだが、何より相手は得体も素性も知れない正体不明の犯罪者。これ以上手の内を晒すわけにはいかない。

ヴィオラは一瞬目を丸くして固まった。が、「そう。それもそうね」と案外大人しく引き下がった。少し予想外だったが、諦めてくれるなら話が早い。

「残念だけど、今夜は諦めるよ。またね。怪盗キッド」

淡々とそう言いながらひらりと片手を振って、屋上の扉の中に消えていった。


「……なんだ、アイツ……」


​───────翌日の朝、新聞が報じたのは、警察も引き払った閉館後の館内を見回っていた職員が、元の位置に平然と鎮座する「水神の心臓」を発見したという報せだった。

あたかも人々の前から消え失せた出来事は全て夢だったと思ってしまうような当然さで、その宝石はショーケースの中に戻っていたという。

Ep.2 "あの人"→←.


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ほろにがクラゲ(プロフ) - 美桜琉さん» こちらこそ続編までありがとうございます!読んでくれる皆様のおかげです……!一生じゃなくていいのでまた着いてきてくださると嬉しいです(笑) (2019年9月28日 14時) (レス) id: 9807b016db (このIDを非表示/違反報告)
美桜琉(プロフ) - 本当に過去編を書いてくれるなんて、、、!ありがとうございます!!一生ついて行きます!笑 これからも更新頑張って下さい! (2019年9月25日 20時) (レス) id: 95c48d4791 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2019年9月25日 18時

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