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しかし怪盗キッドはそれを意に介した様子もなく、執事かなにかのように胸の前に片手を添えるとワタシにこう言った。

「そういう貴女は、怪盗ヴィオラ……ですね? 驚きました、まさかこのように麗しいお嬢様だとは」

ネイティブな英語で返してくるが、彼はいつも日本で活動していると聞いている。アジア系かどうかだけでも知りたかったが、深く被ったハットとモノクルがそれを許してくれそうにない。

観客は固唾を飲んで見守っている。

「その魔法のような手口は素晴らしいよ。けれどワタシはその宝石が欲しいんだ。先に予告したのはワタシだったよね?」

「人のものを奪うのが怪盗の仕事ですよ。いかに美しい女性にねだられてもね」

「……確かに」

怪盗キッドは青緑色の宝石を白い手袋の中に包んで私の方に差し出して見せた。欲しければ盗ってみろ、ということか。

「​───────それでは皆さん、お早いようですがマジックショーは幕引きです。また月夜の輝きの下で……」

彼はマントの端を掴んだかと思うと、その白い布がはためいたあとには人影ひとつ残っていなかった。驚きの声がそこかしこから上がる。

「おっと……それじゃあワタシも失礼。幻のように消えた彼を追わなければ! またね、みんな!」

ロングケープを翻し、ピンポン玉サイズの爆弾を数個その場に叩き付ける。ボンと破裂音がしてメタリックカラーの紙吹雪、白い粉煙が舞い上がった。

視界を遮断した一瞬で元の衣装に戻り、消えた怪盗たちを探しに惑う客たちの間を縫ってホールの外へ出た。

(どこに行った……?)

事前調査によれば怪盗キッドの特技は変装。完璧な変装術と自由自在の声帯模写により、その姿をいかようにも偽ることができる。

もし彼が客に変装して紛れ込んでいるとすれば、発見は困難だ……───────





初冬の風が、室内で温められた肌に吹き付ける。閉館時間はとうに過ぎ、宵の口だった空は月夜の闇に覆われていた。

自然史博物館の屋上は基本立ち入り禁止である。館内のユーモラスで歴史的な威厳に溢れた雰囲気とはかけ離れた殺風景な空間には、物々しいロッカーのような変電器や、空調の室外ユニット、排気ファンなどが無機質に月の光を受けている。

真っ黒なダウンジャケットを着込んだ青年は、キャップを少しだけ上げて手の中の青い石を月にかざした。

「……これもダメか」

吐いた息が白くなって、夜の温度に溶けて消える。

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ほろにがクラゲ(プロフ) - 美桜琉さん» こちらこそ続編までありがとうございます!読んでくれる皆様のおかげです……!一生じゃなくていいのでまた着いてきてくださると嬉しいです(笑) (2019年9月28日 14時) (レス) id: 9807b016db (このIDを非表示/違反報告)
美桜琉(プロフ) - 本当に過去編を書いてくれるなんて、、、!ありがとうございます!!一生ついて行きます!笑 これからも更新頑張って下さい! (2019年9月25日 20時) (レス) id: 95c48d4791 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2019年9月25日 18時

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