Ep.4 怪盗キッド ページ13
通路に引きずり込まれるその瞬間、若い警備員の口が三日月型に歪められるのを見た。
声もあげられない一瞬の間。
だが、完全に想定外のことではなかった。
「このッ……」
私の口元を塞ごうとする白いハンカチを、手首ごと掴んで払い除ける。そのまま床にひっくり返してやろうと思ったが、寸前に上手く身を離されてしまった。
咄嗟に飛び退いて距離をとる。警備員の方も数歩下がって体制を立て直した。
手を伸ばしても届かない間合いを保ったまま、訪れかけていた沈黙を破ったのは警備員の方だった。
「これは驚いた……さすがは名家のお嬢様、武道の心得までおありですか……」
「うるさい、怪盗キッド。手首ひねりあげて突き出されたくなかったらさっさと出て行きなさい!」
「合気道はいつから続けられているんです?」
「合気道だけじゃないわ。古武術を全般的に習ってる」
そう言って壁に立て掛けられた掃除用のT型ほうきを手にとり、持ち手の先端を相手に向けて構えた。
「なるほど」
まるで私の警戒など意にも介さずに、悠然とたたずむ怪盗キッド。
「私を眠らせて変装して、予告時間まであの中に潜り込む算段だったんでしょ? けどそうはさせない」
「ええ、残念ながら目論見は失敗のようです……」
そのとき、廊下の方からざわめきが戻ってきた。Aがいないことに気付いた中森たちが引き返してきたのだろう。
「ではお嬢さん、またのちほど」
「あっ! こら!」
怪盗キッドは引き返すと、通路の向こう側の廊下へと抜けていった。直後、細い通路で一人立ちすくんでいるのを中森に見つかった。
誰と話していたのかと聞かれたので「怪盗キッド」と正直に答えると、中森はすぐさま指示を出して捜査員にあとを追わせた。だが彼の姿はもうとっくに消えているだろう。
「まったく、令嬢の変装を企てるとはタチの悪……、いや待てよ? 既に奴が化けている可能性もあるのか……?」
「……私が偽物ってこと?」
「ふむ……申し訳ないが、少し身体検査を……」
「本物です! ほら!」
私は頬を痛いくらいぐっと引っ張ってみせた。面倒くさいのはごめんだ。
つねった頬が赤くなったのを見たのだろう、中森は「そ、それはすまない……」と残してそそくさと消えた。
男たちが嵐のように去った。
「……また会ったね、怪盗キッド」
取り残された広い廊下で、ぽつりと呟く。床に放り出したほうきが空虚に音を立てた。
小さく、誰にも気付かれないような笑みを零した。
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ほろにがクラゲ(プロフ) - 美桜琉さん» こちらこそ続編までありがとうございます!読んでくれる皆様のおかげです……!一生じゃなくていいのでまた着いてきてくださると嬉しいです(笑) (2019年9月28日 14時) (レス) id: 9807b016db (このIDを非表示/違反報告)
美桜琉(プロフ) - 本当に過去編を書いてくれるなんて、、、!ありがとうございます!!一生ついて行きます!笑 これからも更新頑張って下さい! (2019年9月25日 20時) (レス) id: 95c48d4791 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2019年9月25日 18時