Ep42.見慣れた記憶 ページ42
しばらく大通りを進んだ標的は、突然人気のない路地裏へと足早に侵入した。
気付かれたのかもしれない。私もスピードを上げて跡を追う。
鬼ごっこはそう長く続かなかった。入り組んだ道を10回と曲がる前に、高いコンクリート塀へ行き着いたのだ。
「…………」
私の身長を優に超すコンクリート塀の上には、有刺鉄線が張り巡らされている。リースリングの姿は無い。
普通に考えて、行き止まりだろう。
どうも私は普通ではないようだけれど。
次の瞬間、傍らの木箱を蹴って体は宙を舞った。反対側の壁を蹴りつけ軽々有刺鉄線を越えれば、ふわりと高く浮かんだ私の視界に映ったのは、壁を背にして驚嘆の表情でこちらを見上げる標的の姿だった。
逃げようと踵を返す彼女の前に降り立つ。着地が問題なく済んだ事を確認して、トレンチコートのポケットから煙草を出し火をつけた。
「初めまして。私はニコラシカ、名前くらいは覚えがあるかしら?」
焦燥に染まった顔に、また驚きの色が垣間見えた。
「ニコラシカ? た、確かに若い女だとは聞いてたけれど……その歳で幹部級なんて……」
「そうね、戸籍上は18歳。早速だけど用があるの、あなたにノックの疑いがかかってるそうよ」
「……何言ってるの? 私がノック? 冗談じゃないわ」
「冗談かどうかは私が決める。ここで死ぬか、仲間の名を吐くか。どっちにしろ5秒以内に覚悟を決めて」
煙草の灰を落としながら愛用のハンドガンの照準を合わせた。「5」カウントダウンを口にする。
「ちょっと、だから私は……」
「4」
「……ッ!」
残り3秒。リースリングの追い詰められた目があたりを彷徨う。
残り2秒。逃げ場は無い。腰のホルスターに手が伸びる。
残り1秒。相手の銃口が私の額を捉える。
「…ゼロ」
ほぼ同時に銃声が響いた。
ベルリンの空は抜けるほど青く、寂しげな気がした。
ふう、と煙と一緒に息を吐く。
花が咲くように壁に散る赤。相手に命中したのは私の弾だけだった。
静かに遺体に歩み寄り、それを見下ろす。
吸い慣れた煙草の味がじんわりと滲み、私の中の「普通」を麻痺させる。これを吸っている間、私は何一つの迷いもない「黒」になれる。
「…………」
灰が落ち、フィルターが燃えるまで、黙ってそれを眺めていた。
何も思わずにいられることを確かめる為に。
既にその光景は、幾度となく踏み歩いてきた背景のひとつに過ぎなかった。
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もこ - 面白い (10月11日 17時) (レス) id: 67135257cc (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - ののいろ系女子さん» ここで……終わってしまいました!<(・`-・`)>バーン ありがとうございます!そうですね、次はちゃんと(?)トリップものにしようかと考えています。よかったら次もよろしくお願いします! (2019年2月6日 19時) (レス) id: 41e8a6fa74 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - ハルカさん» ありがとうございます!こんな打ち切りみたいな終わり方でいいんだろうか……と思っていたのですが、楽しんで頂けたなら良かったです! (2019年2月6日 19時) (レス) id: 41e8a6fa74 (このIDを非表示/違反報告)
ののいろ系女子 - ここで!?でも、これはこれで結構良いわぁ!←何様 黒の組織エンド最高でした!次の作品は、トリップか転生物が見たいなぁって。てへ( ^∀^)← (2019年2月4日 19時) (レス) id: 8fb3eabd58 (このIDを非表示/違反報告)
ハルカ(プロフ) - 黒の組織エンドめっちゃいいです!最後まで楽しませていただきました!完結おめでとうございます! (2019年2月1日 8時) (レス) id: f6af1829c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2018年7月28日 19時