記憶喪失はフリじゃないんですよ。【名探偵コナン】

Ep41.シナリオの記憶 ページ41

​───────それから数日後。


「はァ！？ 今なんて！？」


周囲を警戒して小声で怒鳴る私を、すれ違った男性が二度見する。

私はそれを横目に駅の雑踏に紛れ込みながら、相手がなにか弁解している様子のインカムに耳を傾けた。


『いや、だから……』

「やっぱり返事はいらないわ、ウォッカ。理解はした。リースリングは私が一人で片付ける」


ここはドイツのベルリン。つい半日ほど前に組織から連絡を受け、スパイ疑惑の構成員を処分するために組織所有のジェット機で8時間かけて辿り着いたところだ。人使いが荒い。


『ああ、アニキの判断だ。どうもこっちの方が都合がいいらしい』

「別に誰の判断だろうと構わないわよ。でも結構直前に連絡するのやめてくれる？ ルート練り直しじゃない……ほんっと社会人としてなってない！ ぜんっぜんなってないわこの組織！ っていうかジン！！ いつもいつも勝手にコロコロ指示を変えて……」

『ご機嫌の所悪ぃが……それは嫌味か？それとも反抗か？』

「あら聞いてたのジン？ 忘れてたわ」

『ふざけてないでとっとと向かえ。帰っても仕事は山積みだ』


「はぁい」と気の抜けた返事を最後に通話を切り、標的のあとを追って列車に乗り込んだ。

隣の車両から相手の居場所を確認する。リースリングはさも一般人ですといった顔で上手いこと周囲に溶け込んでいた。


(ここら一帯の地理と路線図……私が考えるに彼女が表向きの職場まで地下鉄で移動するのは予定外。というか、不自然だ……まさか、気付いてる？)


……無いな。私の存在に気付いたなら、人の多い駅で何かしらの行動を起こしていただろう。強いていえば組織の動きに勘づき警戒中、と言ったところか。だから面の割れていない私の方がむしろ好都合だったワケだ。

ただ、リースリングの暗殺は本来は私の仕事ではなかった事だけが気になる。原作のシナリオから大きなズレが生じなければいいのだが。




……いや、別に生じてもいいでしょ。

むしろ原作通りに進むと私達の鼠駆除は失敗。キュラソー奪還も叶わず作戦は失敗だ。あとオスプレイ墜落する。ヤバい。

でも……私達が勝ってしまったら？

それは、つまり…………



​──────ザワッ、と耳に飛び込んできた雑音に我に返る。いつの間にか列車は駅に止まっていて、車両を降りて行く標的が見えた。

私らしくもない。構内アナウンスに急き立てられ、慌てて私も駅へ降りた。

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