Ep37.赤色の記憶 ページ37
「…………いやいやいやいや、」
日が沈みきり随分と経った頃、私はいくつかあるセーフティハウスの地下駐車場に到着した。周辺に誰もいないこと、怪しい機器などが車内に無いことを確認してから、それまで保っていた真顔を崩しハンドルに顔を埋めた。
「……おかしいよね!? おかしい! おかしいよ! うん! おかしいわ! 何が!? 私の頭が!?」
数時間前、私は全てを思い出した。記憶を取り戻したのだ。実に喜ばしい、めでたい事である。───────もし、はずみでつい前世の記憶なんかを思い出していなければの話だが。
前世?そんなものファンタジーのたぐいだ。記憶があるなんて言われた暁には妄想症を疑う方が余程正しい。
そう思っていた。けど、これは、……いや、間違いない。
私が今まで私だと思っていたものは「前世の私」。私が取り戻そうとしていたものは「前世の記憶」。本当の私は、この世界で生まれ育ちこの街で生きた「ニコラシカ」という裏社会の人間だったのだ。
思い出してしまった……、全て思い出した。
その結果私は「前世」と「今世」、二つの記憶と人格を併せ持つことになってしまった。
どういう事か分かるだろう。
あの、あれだ、ものすごく───────……混乱してる。
「え、ええええぇ……、前世の記憶? 待って、それどころか、前世の記憶に残った漫画の、空想の世界がここ……? え、えっ、嘘ぉ……」
……かつてなく混乱している。情けないことに。私ってこんなキャラだったか。いや、「A」はこんなキャラだったかもしれないが、「ニコラシカ」は違う。絶対に違う。
でも私はAじゃなくてニコラシカ。黒の組織の一員でこの世界の住人。ただ、”新幹線事故で死んだ前世の自分”の記憶を思い出してしまっただけ。
そう、そうだ。確かあの時、仕事で新幹線に乗って、ふと窓を見たら真っ赤な夕陽が綺麗で───────……
頭痛と目眩と、奇妙な記憶の混乱。何とか目的地に着いたはいいものの、駅に降りてからの記憶は…………、無い。
「……そうか、それで私は……あの時、駅に………………」
よく聞く話だ。前世の自分とゆかりのある場所に行った拍子に、かつての記憶を思い出す。くだらないファンタジー。
私は新幹線の窓とその外に見える夕陽の赤色を、死ぬ直前に見た景色と重ねたのだ。
綺麗な赤だったんだ。まるで、咲いて散った血のように。
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もこ - 面白い (10月11日 17時) (レス) id: 67135257cc (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - ののいろ系女子さん» ここで……終わってしまいました!<(・`-・`)>バーン ありがとうございます!そうですね、次はちゃんと(?)トリップものにしようかと考えています。よかったら次もよろしくお願いします! (2019年2月6日 19時) (レス) id: 41e8a6fa74 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - ハルカさん» ありがとうございます!こんな打ち切りみたいな終わり方でいいんだろうか……と思っていたのですが、楽しんで頂けたなら良かったです! (2019年2月6日 19時) (レス) id: 41e8a6fa74 (このIDを非表示/違反報告)
ののいろ系女子 - ここで!?でも、これはこれで結構良いわぁ!←何様 黒の組織エンド最高でした!次の作品は、トリップか転生物が見たいなぁって。てへ( ^∀^)← (2019年2月4日 19時) (レス) id: 8fb3eabd58 (このIDを非表示/違反報告)
ハルカ(プロフ) - 黒の組織エンドめっちゃいいです!最後まで楽しませていただきました!完結おめでとうございます! (2019年2月1日 8時) (レス) id: f6af1829c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2018年7月28日 19時