Ep36.少女の記憶 ページ36
これはとある少女の記憶。
父と母はいなかった。
顔も声も覚えていない。あるいは知らないのかもしれない。
物心つく前から"ここ"にいた。
ここには陽の光は当たらない。明るい場所から覗いても、光に眩んだ目では何一つ窺い知ることの出来ない。
ここは湿気と血と油の匂いに塗れた暗闇の世界。
小さな手で凶器を持った。
水溜まりを跳ね上げるように血の海を駆けた。
無邪気だった笑顔は次第に鈍く影を帯びた。
太陽を知らない私は、自分が「影」にいるのだと知るのにも、随分と時間を要した。
そして、そのうち知らされた。
私から両親を奪ったのは、他でもない、私がいるこの「組織」なのだと。
それならば、それでもいい。
私はそのことで誰かを恨んだりはしない。
私をここまで育ててくれたのは、私を産んだ誰かではない。ここにいる彼らだ。闇の世界を生きる彼らがいつも私のそばにいた。
この世界にはこの世界なりのルールがある。それに反して処分されたというのなら、それは仕方ない事なのだろう。
彼らが私を黒とするのなら、私は黒に徹しよう。
影としての私が必要とされる限り、私は太陽を拒み続けよう。
それは紛れもなく、私自身の自由な意思なのだから。
……はた、と疑問に思う。
「私」とは誰なのか。
免許証にあった名は、私のものではなかった。アレは戸籍売買の仲介業者から買い取った中古品に過ぎない。
私の表の顔は株式投資で生計を立てるプロトレーダー、槻舘はその顔を彩るひとつの模様でありそれ以上でも以下でもない。
この記憶の主人公は、私。けれど、この世界を"名探偵コナン"の物語として悉知する記憶を持っているのも「私」だ。
ありえない。矛盾している。けれど事実。
なぜそんな矛盾が起こりうるのか───────
その答えも、私は既に思い出していた。
私は───────ニコラシカ。ある組織に拾われ育てられた日陰の人間。
この名も組織から与えられたものだ。私という人間を構成する一番の欠片と言っても過言ではないだろう。
そして過去、この世界を外側から観測し、面白いことに熱を上げていた時期があった。
その時の名は、「飛田A」という。
これは私の───────前世の記憶だ。
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もこ - 面白い (10月11日 17時) (レス) id: 67135257cc (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - ののいろ系女子さん» ここで……終わってしまいました!<(・`-・`)>バーン ありがとうございます!そうですね、次はちゃんと(?)トリップものにしようかと考えています。よかったら次もよろしくお願いします! (2019年2月6日 19時) (レス) id: 41e8a6fa74 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - ハルカさん» ありがとうございます!こんな打ち切りみたいな終わり方でいいんだろうか……と思っていたのですが、楽しんで頂けたなら良かったです! (2019年2月6日 19時) (レス) id: 41e8a6fa74 (このIDを非表示/違反報告)
ののいろ系女子 - ここで!?でも、これはこれで結構良いわぁ!←何様 黒の組織エンド最高でした!次の作品は、トリップか転生物が見たいなぁって。てへ( ^∀^)← (2019年2月4日 19時) (レス) id: 8fb3eabd58 (このIDを非表示/違反報告)
ハルカ(プロフ) - 黒の組織エンドめっちゃいいです!最後まで楽しませていただきました!完結おめでとうございます! (2019年2月1日 8時) (レス) id: f6af1829c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2018年7月28日 19時