Ep35.回帰せし記憶 ページ35
薄く息を吸って、もう一度言う。
「あなた達は撃てない。何故なら"私を始末する指令は出ていない"から」
淡々と、当然のように、透き通った声は落ち着いている。
「自分の価値は、自分が一番分かってるもの……。私はこの程度のお茶目で処分されるような捨て駒じゃないわ……」
生憎ね、と捕まえていた銃身を柔らかに離す。
ゆっくりと、それでも重みを感じさせず立ち上がる姿はまるで───────別人と言って差し支えなかった。
「私が組織に消されるって? ハッタリにしては楽しすぎね、……思わず乗っちゃった」
「……また得意の悪ふざけか?」
「そっちこそ。 あなたが悪ふざけなんて珍しいじゃない、私がいなくてそんなに心細かった?」
「あァ、悪ふざけに見えたなら悪かったな……。その放浪癖を何とかしろと何度言えば大人しくなるんだテメェは」
「無理ね、性分だから」
しばらく張り詰めた睨み合いが続き、やがて露骨に不満げな舌打ちと共に銃が下ろされる。それを見たもう一人も構えていた拳銃を懐に戻した。
対照的に満足気な笑みをこれ見よがしに浮かべ、
「心配しないで! 秘密主義のベルモットや新参者のバーボンなんかとは訳が違う……。私が組織を裏切るなんて有り得ない妄想は無駄でしかないってコトくらい、付き合いの長いあなたはよく分かってるでしょ?」
「ああ……次にその性分とやらを発揮したら、今度こそ頭蓋骨に穴を空けてやる」
「それも聞き飽きた。帰るわ」
呑気に欠伸をしだす少女に、遠巻きに見ていた女性から「あなたほどの自由人は見たことがないわ」と呆れ混じりの声がかかる。少女は事も無げに「まァね」と返した。
割れた窓から月光が綺麗に差し込んでいた。
その場を立ち去る三人のまばらな足音が反響する。ガラスの欠片を踏み砕く微かな音が混じる。
「…………、」
ふらり、一番後ろを歩く少女がよろめいた。銀髪の男が足を止め振り返る。
「どうした、ニコラシカ」
その少女はこめかみを押さえたまま音もなく息をつき、瞼の奥から朱殷色の瞳を覗かせた。
「何でもないわ」
───────ただ、全て思い出しただけ。
背中に向けて放たれた小さな言葉は、廃屋に積もった砂塵に混ざり、消えた。
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もこ - 面白い (10月11日 17時) (レス) id: 67135257cc (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - ののいろ系女子さん» ここで……終わってしまいました!<(・`-・`)>バーン ありがとうございます!そうですね、次はちゃんと(?)トリップものにしようかと考えています。よかったら次もよろしくお願いします! (2019年2月6日 19時) (レス) id: 41e8a6fa74 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - ハルカさん» ありがとうございます!こんな打ち切りみたいな終わり方でいいんだろうか……と思っていたのですが、楽しんで頂けたなら良かったです! (2019年2月6日 19時) (レス) id: 41e8a6fa74 (このIDを非表示/違反報告)
ののいろ系女子 - ここで!?でも、これはこれで結構良いわぁ!←何様 黒の組織エンド最高でした!次の作品は、トリップか転生物が見たいなぁって。てへ( ^∀^)← (2019年2月4日 19時) (レス) id: 8fb3eabd58 (このIDを非表示/違反報告)
ハルカ(プロフ) - 黒の組織エンドめっちゃいいです!最後まで楽しませていただきました!完結おめでとうございます! (2019年2月1日 8時) (レス) id: f6af1829c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2018年7月28日 19時