Ep28.客観的記憶 ページ28
吹く風はもう夜の涼しさを纏っていて、私たちの間に流れる空気を冷やすように通り抜けた。
それでも掌に汗が滲み、結んだ口から「やっぱり答えなくていいです」と言葉が零れそうになるのを堪える。
安室さんは何も言わず、私の真意を見透かすように見ていたが、「何の冗談ですか」と溜息を吐き出した。
それに対し私は息を飲んで、もう一度強く意志を持ち直す。
「────あのですね、嘘偽りなく本気で言います。私は今、一週間より前の記憶がありません。ホントに。ただ……ついさっきこんなメールが届きまして」
ポケットからスマホを出して文面を読み上げる。
「『裏切ったのでないのなら早々に戻りなさい。ベレッタのお怒りを食らう前にね』……本文は英語で意訳ですが、こんな内容です。という訳で事は一刻を争います、答えてください」
「記憶が無いのなら、あなたはそのメールの意図を理解出来ないのでは? あまつさえただ一度顔を合わせただけの僕とメールの送り主の間に関係性を疑うことが可能だと……?」
「あ、そうですよね、訂正します。私には記憶が無い、ただし……えぇと、『この世界をある客観で見た場合の記憶』を除いて、です。その辺のことは前の私から聞いていませんか?」
「……意味が分かりません」
「組織の存在……のみならず、いくつかの事実を初めから知っていたという事です。例えば、安室さんの正体」
「……」
今は、安室さんに信じてもらう。メールに返信するのはそのあとだ。
「……心当たりあるでしょう?組織の上級構成員、コードネームはバーボン。その真の正体は……警察庁所属の公安警察、本名降谷零」
また沈黙が落ちた。
「……何故今まで、組織にリークしなかった」
────私は頭を抱えた。最っ悪だ!
それってつまり認めたのと同じだよね!?
「やっぱり私も……組織のメンバーだったんですね…………?」
「って────まさか本当に……」
「だから本当に記憶喪失です!」
最悪、最悪の中の最悪だ。何やらかした、過去の私。なんでトリップして黒の組織に取り入ってんだ馬鹿。もっと他にやる事あるだろ。
「なぜリークしなかったのか、その答えは単純明快、私にその気が無かったからで……そもそもなぜ私があの組織に入ったのやら、あぁあ何が何だか……」
落ち込んでよろりと振らつく。ああ、想定が現実のものに……。
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もこ - 面白い (10月11日 17時) (レス) id: 67135257cc (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - ののいろ系女子さん» ここで……終わってしまいました!<(・`-・`)>バーン ありがとうございます!そうですね、次はちゃんと(?)トリップものにしようかと考えています。よかったら次もよろしくお願いします! (2019年2月6日 19時) (レス) id: 41e8a6fa74 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - ハルカさん» ありがとうございます!こんな打ち切りみたいな終わり方でいいんだろうか……と思っていたのですが、楽しんで頂けたなら良かったです! (2019年2月6日 19時) (レス) id: 41e8a6fa74 (このIDを非表示/違反報告)
ののいろ系女子 - ここで!?でも、これはこれで結構良いわぁ!←何様 黒の組織エンド最高でした!次の作品は、トリップか転生物が見たいなぁって。てへ( ^∀^)← (2019年2月4日 19時) (レス) id: 8fb3eabd58 (このIDを非表示/違反報告)
ハルカ(プロフ) - 黒の組織エンドめっちゃいいです!最後まで楽しませていただきました!完結おめでとうございます! (2019年2月1日 8時) (レス) id: f6af1829c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2018年7月28日 19時