【実I況I者】それはきっと、【キIヨ】II

94．元気に ページ46

｢じゃあこれをお願い｣

今のつわに必要なものは全て書き出したつもりだ。
雑炊の食材に、熱さまシートや薬。
お金は元気になったつわからしっかり搾り取らないとね！

｢うん、任せてよ。つわはす君のことは頼んだ｣

｢もちろん！私たちが来たんだから絶対に元気にさせてやる｣

キヨはそうだな｡と笑って、つわの元へと歩み寄る。

｢つわはす君車借りるね｣

規則正しく上下する胸。
意識のないつわからの返事なんてあるわけない。
それでも律儀に持ち主に告げるところが、キヨらしくて素敵だと感じた。
記憶が正しければ、つわはいつも鍵をダイニングの机の上の小さな瓶の中に入れている。

｢あった。これつわの鍵｣

｢ありがとう…本当に詳しいんだな｣

｢まぁ長年の付き合いだからね。気をつけていってらつしゃい｣

｢うん、行ってきます｣










キヨが出て行った部屋の中。
つわの汗を拭き取るために洗面所にあるタオルを取りに行く。

久しぶりに訪れた、質素で静かな一人暮らしをするには少し広い家。
久しぶりに来たことにも広いことにも理由がある。

｢…ごめんね｣

こんな寂しい家に一人にしてごめんね。
具合が悪いことにもすぐに気がつけなかったし、飲み屋を立ち去るつわの背中に着いて行けばよかった。
私はいつもつわの優しさに甘えてたんだ。

タオルの戸棚の扉をパタリと閉じて静かな廊下を歩く。
つわの寝ているベッドの傍に座り込んで、額や首の汗を拭う。
ときおり苦しそうに息を荒くするつわに胸が痛む。

｢はやく元気になってね｣

いつもの優しい小言が聞きたい。
なんて思うのはきっとこれが最初で最後だよ。

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