20話 ページ21
ボクはライブ数日後に控え、舞台など色々なものの最終確認をしていた。
「こほっこほっ」
「…がくと、咳…風邪?」
「少しだるいけど、問題ないよ」
Aが掛け布団を持ってきてくれる。
ボクは持っていたタブレット端末を机に置いて、Aを膝の上に引っ張り込んだ。
「っ!がくと、こういう近いのは大切な人とっ」
「んー?ボクはAが大切だけど?」
このことは何度言っても正確に伝わらなくて、もう…Aと出会ってから一年近く、か?
最近は少なくなったが、ボクと居る時にふと暗い顔を見せる。
その瞬間にAが消えてしまいそうで、少なからず恐怖を覚えていた。
親に捨てられたこと。
誰にも必要とされないこと。
Aはまだ過去に縛られたまま…。
「A、ボクにはAが必要だよ」
そういったボクに、Aが返した言葉は今でも鮮明に覚えている。
「…私には何もないのに?」
自分には何もない。
自分に価値はない…。
そのあまりにも悲しいAの本心は、今日も綺麗に磨かれたこの家が物語っていた。
「ここにいさせてもらうには、これくらいのこと、しないと」
Aにとってボクはあくまでご主人様で、対等ではないのだ。
…対等に…恋愛対象として見てくれれば楽なことこの上ないんだけど。
「いつになったら圏内にはいるんだろうねー。」
「?…がくと、いつもよりちょっと熱い。寝たほうが良いと思うんだけど。」
「んー…まだ昼間だし、確認もしないとなぁ」
Aは珍しくボクに抱かれていても抵抗しない。
ボクを心配するその表情がとてもかわいい。
「あとどれくらいで終わる?」
「1時間すれば終わる」
「…わかった。ご飯の準備してくるから離せ」
その言葉と圧にボクは腕の力を強くして、腕の中にAを閉じ込める。
「Aがここでこうしてくれていれば、ご飯なんていらない」
「風邪なんだから、何かお腹に入れたほうが良い。お粥、食べない?」
…Aの作ったお粥。
食べたい。
ボクは腕の力を緩めた。
「じゃあ1時間くらいしたらお粥持ってくる。」
そう言ってAは部屋を出て、ボクのまわりは静かになった。
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アオチー(プロフ) - 最高です! (2020年1月11日 14時) (レス) id: 3f20b2e02d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鳴神いすず | 作成日時:2017年2月8日 0時