モーンガータ (ページ2)

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「小笠原！ちょっとそこどいて！」

休み時間になると、Aさんの席の周りには女子が群がる。俺は自分の席に座ってるだけなのに、追いやられた。

「Aちゃん、超美人じゃない！？ね？拓弥もそう思うよね！？」

「お前は、うるせぇんだよ。自分の席戻れ。」

「俺は戻れない。」

「海は、しばらく頑張れ。」

追いやられた俺は席の離れた拓弥のところへとやって来た。自分の席のほうに目を向けるときゃっきゃっと騒ぐ女子たち。

その中心人物は、ふっと時折笑顔を見せながら会話に参加しているように見えるけど俺はその笑顔にすごく違和感を覚えた。

…ニセモノだ。

あまりにもじっと見ていたために、こちらをちらりと見たAさんと目が合ってしまった。

慌てて視線を逸らして、座っている拓弥へと目線を落とす。ここでも、バチっと目が合った。

「…めっちゃ見てたね。」

「いや、別に…。」

「気になるの？転校生のこと。」

「そりゃあ、転校してきたら誰だって最初は気になるだろ。」

「ふ～ん。」

薄ら笑いを浮かべた拓弥に何だか見透かされているようだった。

チャイムの合図で群がっていた女子たちが自分の席へと戻っていく。俺もやっと席へと戻った。

『ねぇ、教科書…見せて。』

ほっと一息ついていると、隣からは聞き慣れない声が聞こえる。

「あ、うん。どうぞ。」

ガタガタっと机を動かしてぴったりとくっ付いた机の間に教科書を置いた。

『名前、なに？』

「名前？海。小笠原海。」

『綺麗な名前。』

Aさんは、俺の名前を聞いてすぐに前を向いた。隣でノートをめくったり、シャープペンシルを動かしている手は細くて今にも折れてしまいそうだった。

ちらちらと横を気にして、授業を受けた。何だか今日一日いやに長かった気がする。

『小笠原くん。』

「ん？」

『ありがとう。』

放課後、椅子に座っていて硬くなった体をぐっと伸ばしていると、Aさんからお礼を述べられた。きっと教科書を見せたことに対して。

「どういたしまして。」

『じゃあ。』

その場を去っていく後ろ姿を見つめていた。今日わかったことはAさんは、淡白な人だ。何となく、他の女子たちとは違う空気を感じる。