ペトリコール (ページ10)

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心臓が痛い。ドクドクと波打つのが分かる。

祐基くんが拓弥さんを連れてきてくれたと舞い上がっていたけれど、廊下を覗いても私が求めていた彼の姿は見当たらなかった。

「ごめんね、Aちゃん。拓弥、用事あるみたいで。…連れて来れなかった。」

あからさまに肩を落とす私を見兼ねて、ごめんねと言葉を続ける小笠原さん。

『…いえ、用事があるなら仕方ないですよね。でも、来てくれてありがとうございます。』

私の心を見透かすように窓の外は、雨がパラつき始めていた。

「いや～～！ちょっと、雨がやばい！」

瞬時に本降りになってきた雨から逃れて、外で呼び込みをしていた佑亮が慌てて戻ってきた。

『佑亮お疲れさま！』

「…あ、えっと…」

『祐基くんと小笠原さん。遊びに来てくれた。』

「どうも。」

見た目によらず少し人見知りな佑亮は、よそよそしく会釈をするだけ。

「…拓弥さん…は？」

『…来てない。』

「そっか…」

佑亮は2人のことをちらっと見て、持っていた看板を置きに教室の奥へ。

「Aちゃん～！休憩時間とかないの？一緒に回りたい！」

『この後、交代の時間なんですけど…』

佑亮と回る約束をしていたから、奥にいる佑亮を振り返ると“行っておいで。”と手を振ってきた。

『じゃあ、お願いします。』

「まじ！？やった～！」

嬉しそうにはしゃぐ祐基くんを見て頬が緩んだ。もしも、拓弥さんが来ていたら私から誘うことは出来ていたかな…。

いくつか祐基くんの行きたい場所を回った後、最後に私の行きたいところへ行くことに。

「他にどこか行きたいところある？」

『えっと…写真展行きたいです。』

長い廊下の壁に掲示された白黒の写真を祐基くんと並んで眺めていると見覚えのある風景が。

『これ…』

「ん？」

『これ、…ここの公園。良く通るんです。』

そこに映っていたのは、拓弥さんが良くいる公園の風景。

『家から近くて学校行くとき必ずここ通るんですけど、ちっちゃい時からずっと遊んでた場所だから飽き飽きしてたのに今はここが大好きになりました。』

黙ったまま何も喋らない祐基くん。

『…あ、ごめんなさい。どうでもいいですよね、こんなこと。』

「…拓弥がいるから？」