ペトリコール (ページ9)

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時刻は21時を回った。

拓弥さんに文化祭のしおりを渡して、この前のことを謝るだけなのに。

…たったそれだけのことなのに。

「A、バイトお疲れ様。」

『お迎えありがとう、佑亮。』

「Aちゃん、こっち。」

『ちょっと、ごめんね、佑亮。待ってて。』

小笠原さんに手招きをされて、近付いた。暗くてはっきり見えなかったけど、そこにはずっと会いたかった拓弥さんがいた。

「…なに。」

初めて拓弥さんに話しかけたときと同じようなぶっきらぼうな態度。

『あの…これ。』

「何これ。」

『…ぶ、文化祭の、しおり…です。あの、良かったら、来てください。』

拓弥さんは無言で受け取った。静かな空気に耐え切れなくて、また言葉を続ける。

『それと…この前は、ごめんなさい。』

「何が？」

『せっかく、声かけて下さったのに断ってしまって…良く考えたら失礼だったかなって。謝りたかったけど、会えなくて、だから、その…』

「いいよ、別に。気にしてない。…じゃあ。」

「あ、ちょっとおい！拓弥！Aちゃん、ごめんね。じゃあ、また。」

顔の前で手を合わせ、立ち去った拓弥さんを追いかけていく小笠原さん。

一気に力が抜けて、その場に座り込んだ。

「A！！大丈夫！？」

『佑亮…。』

駆け寄って来てくれた佑亮に抱き着き、胸に顔を埋めて泣いた。背中をぽんぽんと叩き慰めてくれた。

「拓弥さん、来てくれるといいね文化祭。」

『…うん。』

不安な気持ちを抱えたまま、迎えた文化祭当日。

意外と反響のいい私たちのクラスのカフェ。忙しなくみんながバタバタと動いている。

「外で呼び込みしてた人かっこよかったよね～。」

他校の女の子たちが色めき立つ相手を幼馴染にもつ私は鼻高々だ。

勝ち誇った気分でいると、ひょっこりと入り口から顔を覗かせ手を振る見知った人。

『祐基くん！！！』

入り口に駆け寄り、教室の外へと目を動かした。

鼓動が激しくなった。