松尾君と、憂鬱

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「雨だ……」








予報ではくもりだったはずなのに。


これまたデジャブ。






大粒の雨が途切れることなく降っている。








それでも私は折りたたみ傘を常備しているので、玄関から走り出す負け組とは違……

あれ、傘……傘がない……








そういえばあの折りたたみ傘、松尾君に返してもらってない！









意を決して走り出そうと、よぅい、のポーズをしたところで「何そのマヌケなポーズ」と声をかけられた。




「匠海」







「まさか走って帰るつもり？」






その手には傘。それも、折りたたみではない傘だ。







「そんなわけないじゃん、」


「だよね、まさかね」







「匠海に入れてってもらうから」






イケメンコンテストの撮影くらい嫌な顔をした匠海に、「明日の弁当」と言うと「お送りしましょう」と傘を開いた。うん、ちょろい。









「昼間Aに蹴られたところ青アザできたんだけど。座ると痛い」





「座らなきゃいいじゃん」




「あ、そういうこと言う？濡れて帰れば」







「あーごめんごめん！
今日からあげだけど、うちくる？おばさんいる？」






「からあげかあ……」








近所になったところでペースが遅くなり、少し考えながら歩く。









「一口つまみぐいして、帰る」









こうして濡れずに帰れたわけで。




隣の家ながら帰らない、なのか、
隣の家だから帰らない、なのか。
匠海はそのまま一緒に我が家に入った。









「ただいまー」
「お邪魔しまーす」




「おかえり、匠海くんからあげ食べるでしょ」









ガヤガヤとにぎやかな我が家。
そしてザーザー降る雨で気付かなかった。









カタン、とドアノブにかけられた折りたたみ傘と、





折りたたみ傘を置いていった人物に。









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