蝋火を食す/ K.Ty ページ37
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甘い果実の香りがした。生花の様でもある。甘く、何処か爽やかな香りであった。私は其処に狂鳥の如く寝転んでいた。天井には豪奢な絵が書かれている。こういうのは存じ上げないが、丁度真上には蛮蛮が飛んでいるのが見えた。極彩色の美しい身体が灯りにてらてらと輝いている。気を逸らしていると天井絵を遮る様に美しい顔が此方を覗く。
「あ、起きました?」
「えっと、此処は。」
漆黒の瞳は燈の所為か深紅に映える。季がごろり、と転がる様な色合いである。睫毛が青や金に反射して美しい光景だった。その瞳だけで他人を魅了して終いそうだ。鮮やかな赤を見詰めているとぱちり、と彼が瞬きして私の顔を見下げた。頭の黒い獣耳がぴくぴく動く。
「宴会場に引っ張って来ました。」
「それは、ええと、すみません。」
彼に何時迄も身体を預けている訳にはいかないと身体を起こそうと力を入れたが、微動だにしない。指先一つ動かないのだ。瞬きと口は動くし、心臓も肺も動いている。四肢の運動が出来ないのだ。じとり、と背に嫌な汗を掻いた。黒い青少年は軽く小首を傾げて曰う。
「暴れないでください。」
「え、ぃや、何で、」
男の襟足が揺れた。つやりとした白銀は夜を切り裂く彗星の様に無彩色の光とエメラルドの星屑を煌めかせる。神話に出て来る鮫人の鱗の様である。ミントグリーンの奇しい光がちかちかと瞬いて彼を更に印象深く仕立て上げていた。桃肌の唇が永遠を生きる軒轅の様に言葉を紡ぐ。
「神に怪我を負わせる等有ってはならない事なので。」
「か、み……?」
「そうですよ。Aは神様なので。」
「ぇ。」
シックな素振りで人外はくすりと笑う。大人びた表情は文字通り、私より年長者である証。黄金の煌きがぶわり、と唐突に消えた。暗闇には果果しいと三日月型に目を細める神狼の縦に割れて輝くオレンジ色の瞳。其れが私を覗き込む様にずい、と近付いた。呼吸が絞められる様な心地だ。
「主様の事はこの剣持刀也がお守りします。」
「意味、分かんない。」
「Aだけの一匹狼ですよ。存分に可愛がって。」
「嫌、お家に、」
「それともAは可哀想な忠犬を捨てますか?だったら此処でAの命ごと喰べようかな。」
あれ、私、彼に名前なんか教えたっけ。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
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鵯(ひよどり)(プロフ) - イズミさん» お初お目にかからせて頂きます。ご愛顧賜れて何よりで御座います。リクエスト承りました。緩慢に連ねておりますので3日〜1週間程お時間頂戴する事、ご承知おきくださいませ。 (2022年11月29日 21時) (レス) id: 9c96610dd1 (このIDを非表示/違反報告)
イズミ(プロフ) - 初コメ失礼致します。鵯様の作品の何とも言えない美しさの虜になった者です。リクエストでskngさんで束縛タイプのヤンデレは可能でしょうか…?その他のシチュエーション等はお任せ致します。 (2022年11月29日 18時) (レス) id: 58fc769308 (このIDを非表示/違反報告)
鵯(ひよどり)(プロフ) - 煙さん» 此方こそ大変有難うございました。そういう表現は旗付きにならない様にする事が出来ませんでした。無念。妄想で補ってくださいませ。大変申し訳ない。微力ながらも精進して参ります。よろしくお願いします。 (2022年11月20日 23時) (レス) id: 9c96610dd1 (このIDを非表示/違反報告)
煙 - リクエスト書いてくださりありがとうございます…!実物の彼はヤンデレチックな素振りをあまり見せないので難しいかなぁと思っていたのですが、見事に解釈一致で助かりました。これからも貴方様の美しい小説を楽しみにしております! (2022年11月20日 22時) (レス) id: 0f6ec90c76 (このIDを非表示/違反報告)
煙 - いつも主様の作品楽しく読ませていただいております。リクエストなのですが、夢主が少し病み気質で手首に傷をつけたりしてしまうタイプで、夢主大好きなkgmさんがおそろいにしたくて真似しちゃうみたいなお話をお願いしたいです。 (2022年11月16日 17時) (レス) @page1 id: 0f6ec90c76 (このIDを非表示/違反報告)
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