水椿鶴遊/ K.Hr ページ19
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「分かった。ママが晴の髪、結ってあげようね。」
「うん、良いよ。」
彼女は美と器量の女神として知られる。故に着飾る事も好きな様だった。彼女は懐から椿の櫛を取り出すと髪を弄り始めた。彼女が櫛を通すと短い髪がするり、と伸びる。あっと言う間に腰を越す長髪が現れた。神力で編んだ贋作だと彼女は笑うが、僕はこの髪も好きだ。
「景、藤士郎、驚かせてごめん。」
「……いンや。俺も他所様の事情は知ろうとせんから。」
「神のご意思は僕達に分かるものじゃ無いし、晴が深く語る必要も無いと思う。寧ろ、面倒な事になったと思うし今の対処で正解かもね。」
「ありがとう。秘密にしてた訳じゃなかったんだけど、A様が来る時はいつも一人だったから。」
困惑した様に微笑む二人に安堵して頬が緩んだ。伸びた髪が前に落ちて毛先が苺色に染まっているのが見えた。研究の時に邪魔になるからあまり伸ばした事が無いので、二人は僕が新鮮な様だった。このニュアンスは一時的な物なので丸一日経てば元に戻るが、僕はこうして粧すのは嫌いでは無い。もう既に優しい時間の虜だった。
「晴、髪を少し引っ張りますよ。」
「はい、ママ。」
素肌に滑る様な調和を齎す優しい声に幸せが胸中に広がる。髪型がどうなっているのかは全く分からないが、彼女の理想に近付けているなら何でも良い。神は寛容であれど妥協は殆どしないと聞く。だからママが僕を御子として可愛がるのは恐らく僕がママの理想だからだ。
「晴、出来ましたよ。とっても可愛いわ。」
「ありがとう、ママ。」
「似合ってンぞ、晴。」
「良かったね、晴。」
美しい色。頭に乗る簪の質感。彼女に自由に操られ粧し込まれた頭は僅かに重い。藤士郎が胸元から鏡を出して僕に渡してくれた。頭には開花する直前の椿が白銀の枝葉を纏った簪や翼を広げて飛び立たんとする魅力的な鶴があしらわれた櫛で結われている。
これが彼女の理想。何処かで飽きられてしまうかもしれないけれど、きっとその日までは彼女の理想でありたいと思う。この微かなときめきが幸せが潰える迄はもう少し甘えていよう。美しい鶴の神に魅せられた哀れな御子を置いて黄昏の時間が幾重にも光を重ねる。
「私の晴。いつでも
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
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鵯(ひよどり)(プロフ) - イズミさん» お初お目にかからせて頂きます。ご愛顧賜れて何よりで御座います。リクエスト承りました。緩慢に連ねておりますので3日〜1週間程お時間頂戴する事、ご承知おきくださいませ。 (2022年11月29日 21時) (レス) id: 9c96610dd1 (このIDを非表示/違反報告)
イズミ(プロフ) - 初コメ失礼致します。鵯様の作品の何とも言えない美しさの虜になった者です。リクエストでskngさんで束縛タイプのヤンデレは可能でしょうか…?その他のシチュエーション等はお任せ致します。 (2022年11月29日 18時) (レス) id: 58fc769308 (このIDを非表示/違反報告)
鵯(ひよどり)(プロフ) - 煙さん» 此方こそ大変有難うございました。そういう表現は旗付きにならない様にする事が出来ませんでした。無念。妄想で補ってくださいませ。大変申し訳ない。微力ながらも精進して参ります。よろしくお願いします。 (2022年11月20日 23時) (レス) id: 9c96610dd1 (このIDを非表示/違反報告)
煙 - リクエスト書いてくださりありがとうございます…!実物の彼はヤンデレチックな素振りをあまり見せないので難しいかなぁと思っていたのですが、見事に解釈一致で助かりました。これからも貴方様の美しい小説を楽しみにしております! (2022年11月20日 22時) (レス) id: 0f6ec90c76 (このIDを非表示/違反報告)
煙 - いつも主様の作品楽しく読ませていただいております。リクエストなのですが、夢主が少し病み気質で手首に傷をつけたりしてしまうタイプで、夢主大好きなkgmさんがおそろいにしたくて真似しちゃうみたいなお話をお願いしたいです。 (2022年11月16日 17時) (レス) @page1 id: 0f6ec90c76 (このIDを非表示/違反報告)
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