検索窓
今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:47,391 hit

桎梏ダイナミズム/ knsm ページ49

#



「お前様、夕餉まで時間があるゆえ、茶でも飲みなされ。」
「お、おォ。すまんなァ。」

俺が部屋に見惚れている間に彼女は茶を持って戻って来たらしい。その手には煎茶ともみじ饅頭が乗せられている。俺は開け放たれた障子の先にある縁側に腰を下ろした。彼女も其処に盆を置いて庭を眺める。すっかり宵の空気が漂い始めて、空は美しい茜色に染まっていた。勧められた煎茶を一口飲んだ辺りで彼女が言葉を発した。

「お前様、何故あの様な所に?」
「この山の中にどうやら神社があるらしい、と聞いてな。それより、その『お前様』って言うのやめてくれへん?俺の名前はコネシマや。」

コトン。鹿威しの音がよく響いた。彼女は俺の名前を聞くとニンマリと唇を吊り上げた。その瞬間、リーンとあの鈴音の音が脳内に爆音で反響する。思わず耳を押さえてその場に蹲った。酷い耳鳴りだ。コトリと音がして、美しい山紅葉が溪の流れに散り行く模様が描かれた茶碗が倒れて、凪いだ湖面のように磨かれた床に煎茶が鮮血の様に広がった。カタカタと震える体は全く言うことをきかず、ただただのたうち回るばかり。彼女はその湖面上を滑る様に音もなく目の前に立った。

「言うたな、言うたな!お前様、真名を言うたな!」
「な、にを。」

彼女は先程の麗しさなど影も形もないかの様に高々と笑った。その劈く様な笑い声に視線だけを傾ければ、彼女が指を扇子の様に広げて掲げた。其処には、透き通る様な達筆な字体で俺の名前が浮かび上がっている。彼女はそれを払う様にして、自身の拳に閉じ込めた。

「う"、あ"ァ。」
「コネシマ。妾はAと申す。此処辺りの魑魅魍魎を司り、百鬼の頂点に立つ妖。ずっとずっと探していたぞよ。あァ。千年も待った甲斐があったといふものだ。」

名前を呼ばれた瞬間、身体にゾクリと戦慄が走った。耳から染み渡る彼女の声を聞くだけで頭が熱に浮かされてゆく。そのお声を堪能していれば、彼女が此方に屈み込み、俺の頭を両手で掬う。彼女のヒヤリとした手の感触にドクドクと鼓動が高鳴ってゆく。これ程までに感じた事がない程に熱量を孕んだ身体を持て余していれば、額に口付けが落とされる。すっかり埋没した夕焼けは池の底で蟠るばかり。









童謡、紅葉 より

あとがき→←桎梏ダイナミズム/ knsm


  • 金 運: ★☆☆☆☆
  • 恋愛運: ★★★☆☆
  • 健康運: ★★★★★
  • 全体運: ★★★☆☆


目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (53 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
117人がお気に入り
設定タグ:wrwrd! , 実況者 , 短編集
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

鵯(ひよどり)(プロフ) - 栄養失調さん» みんな大好きやまとちゃんですが、噂(史実)によると沈没日が4月7日付近らしいのです。厳密には沖縄周辺にはでは散っておりますが、あくまで全国平均です。大和戦艦ミュージアムで桜の花をモチーフにしていたりしたのでつい。コメント誠に有難うございます。 (2019年10月14日 7時) (レス) id: 470ef09c6f (このIDを非表示/違反報告)
栄養失調 - 鵯さんの書く作品は本当に美しいですね。言葉一つ一つが繊細で……なんか、言葉にできないような、はい。頑張ってください!!!!(やけくそ) (2019年10月14日 1時) (レス) id: 3967b4b60c (このIDを非表示/違反報告)
栄養失調 - ちょっと待った(迫真)桜纏し大和戦艦……?さくら……さく……ら……?桜は散り際が……一番……(涙戦崩壊) (2019年10月14日 0時) (レス) id: 3967b4b60c (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:鵯(ひよどり) | 作者ホームページ:  
作成日時:2019年9月19日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。