誘惑の接吻/ osmn ページ20
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「また起きたらいっぱいお喋りしような。」
もぞもぞと布団の中に潜り込んでしまった彼女の髪を優しく口付ける。滑らかな触り心地にうっとりしながらも彼女を暫く眠らせてあげる事にした。足音を立てない様に静かにローテーブルに歩み戻る。散らかした紙片を備え付けの女の子らしい屑篭に放ってやる。鋏にカバーを掛けてマーカーをケースに戻す。
「……ん?何やろ、これ。」
先程迄は彼女の腹に隠れて見えなかった部分に皺の寄った、それでも一目で「作品」だと分かる代物を見つけた。細長い長方形の紙片、紙の色は綺麗な緑色。其処に水性マーカーでよれよれの稚拙な字で何事か書かれている。あまりに見え辛いのでよく光に当てて目を凝らした。
「……ふふ。可愛えなぁ。ほんまに可愛え子。」
くしゃくしゃに寄れた幼気な娘の作品を綺麗に折り畳んでジャケットのポケットへ。地面に落ちた紙屑を片付け、彼女が使用した鋏やマーカーや折紙などを彼女の道具箱へ直しておく。どちらにせよ片付けが苦手な彼女の事だ。俺が面倒を見てあげる方が効率が良い。彼女の部屋を安眠用の小さなプラネタリウムを回して音を立てない様に部屋を出た。
「はぁ。今何時や。」
自分の仕事部屋へと舞い戻れば、会合まで後30分弱程だった。内々に話がしたい。そう言ったのは滋賀だった。内々に話をするという事はそれだけ重要な事で尚且つ彼の陣地でやらない辺り彼は他人の懐に入るのが上手い。彼が狂犬である事は忘れていないが。
「失礼致します、大阪様。」
「ええよ、入れや。」
寡黙な秘書が礼儀正しく慇懃に一礼した。ノックはさせない。観光客かどうかを見分ける為の布石だ。手には美しい木目の茶盆が乗っている。今日はローズマリーティーとそれに似合うチョコレートをあしらったお茶受けを準備させた。因みに滋賀との会合とは別に用意させた。
「煙草」
「只今、煙管をお持ちします。」
彼は盆を置くとさっ、と一礼して部屋から出て行った。誰もいなくなった事を確認してポケットから先程の紙切れを取り出す。よれよれの緑色の折紙の中に黒のマーカーで書かれた子供特有の稚拙な字。その稀有な願いの中にはきっと彼女の切実も詰まっている。
「『おそとにでたい』なんて一生叶えさせるわけ無いやろ。」
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
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鵯(ひよどり)(プロフ) - 栄養失調さん» みんな大好きやまとちゃんですが、噂(史実)によると沈没日が4月7日付近らしいのです。厳密には沖縄周辺にはでは散っておりますが、あくまで全国平均です。大和戦艦ミュージアムで桜の花をモチーフにしていたりしたのでつい。コメント誠に有難うございます。 (2019年10月14日 7時) (レス) id: 470ef09c6f (このIDを非表示/違反報告)
栄養失調 - 鵯さんの書く作品は本当に美しいですね。言葉一つ一つが繊細で……なんか、言葉にできないような、はい。頑張ってください!!!!(やけくそ) (2019年10月14日 1時) (レス) id: 3967b4b60c (このIDを非表示/違反報告)
栄養失調 - ちょっと待った(迫真)桜纏し大和戦艦……?さくら……さく……ら……?桜は散り際が……一番……(涙戦崩壊) (2019年10月14日 0時) (レス) id: 3967b4b60c (このIDを非表示/違反報告)
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